京都大学⾼等教育研究開発推進センター 京都大学⾼等教育研究開発推進センター

Interview 03

北野 正雄 理事・副学長

PROFILE

1952年、京都府生まれ。京都大学工学部卒業、大学院工学研究科修士課程修了。工学博士(京都大学)。京都大学大学院工学研究科教授、工学研究科長・工学部長、国際高等教育院長などを経て2014年から現職(教育・情報・評価担当)。専門は電磁波工学・量子エレクトロニクス・量子光学。
“産学協働イノベーション人材育成協議会(C-ENGINE)が推進する研究インターンシップ”

C-ENGINEとはどのような取り組みでしょうか。

主に博士後期課程の学生を企業で約2カ月間インターンシップさせる取り組みです。この活動を通して、普段の大学における研究生活では得られない体験ができます。こうした取り組みを1大学が1企業と個々に行っていくことは容易いですが、そうした取り組み方では効率が悪くなってしまいます。そのためいくつかの大学が共同でコンソーシアムを作って企業と学生のマッチングを行うことで、効果的にそれぞれのニーズにあったインターンシップを提供することができます。当初このコンソーシアムは経済産業省の補助金を受けて運営されていましたが、現在では完全に自立して運営されています。

産学協働イノベーション人材育成協議会

何故インターンシップという方法を取り入れているのでしょうか。

博士後期課程の学生が、就職という段階に立ったときに、研究室という1つのフレームワークから社会にいきなり出るというのでは、専門領域の学問以外に何かが足りなかったり、narrow mindになりがちです。一方で、企業側でも博士後期課程の学生は使いにくいという印象を持たれてしまっています。

そうした状況を打破するために、このインターンシップへの参加を通して博士後期課程の学生を2カ月近く一緒に研究する仲間として受け入れてもらうことで、学生には研究室では得られない経験を得てもらい、企業には博士後期課程の学生とはどんな存在かを知ってもらう機会となっています。

背景としてはどのようなものがあるのでしょうか。

現在博士後期課程の充実ということが掲げられており、博士号を取得して社会に出る学生が増えています。そうした学生たちは、社会に出て様々な問題を解決することができる力を持っています。ただそうした人材をうまく配置していく、社会のニーズに合わせて配置する必要があると考えています。

実際のところ、社会のニーズにあった人材を配置していく上で、どのような難しさがあり、そうした問題の解決にC-ENGINEはどのように役立っているのでしょうか。

こうしたことを説明する上で「他流試合」ということばをよく使います。つまり、博士後期課程の学生が、自分の専門そのものを利用して社会に出て働くということは難しく、どちらかというと自身の専門を転用して仕事をしていく必要があることを理解しなければなりません。そのためこうしたインターンシップへの参加を通して、やや自分の専門とは異なる分野でも活躍しようとすることで、自分の専門の幅を拡げることができます。

C-ENGINEを続けていく上で重要となるのは学生と企業のマッチングではないかと思いますが、それはどのように行っているのでしょうか。

マッチングにあたって、学生には自分の研究分野を紹介する資料を、企業には研究テーマや会社としてやってほしいことを書いてもらい専用のWeb上に掲載します。そうして提出された資料を元に、コンソーシアムに参加している各大学の教員によって構成されているコーディネータ-が学生と企業のマッチングを行います。

必ずしも企業のニーズと学生の専門分野が一致するわけではなく、ずれることもありますよね。

事前に「ずれていることが普通である」ということを企業にも学生にも理解してもらうようにしています。特に学生にとっては、就職して企業で働き始めた際には自身の専門分野そのものを使って仕事をするというよりは、ずれている分野に自身の専門分野を転用することが普通ということに慣れてもらう機会になっています。

この取り組みを通して、博士後期課程の学生はどのように感じているのでしょうか。何か具体的なエピソードはありますでしょうか。

これまでにインターンシップに参加した学生はそれぞれ、大きく成長してまた研究室に戻っていっています。学生が実際どのような体験をし、どう成長したのか、具体的なエピソードとしては、以下のサイトに詳細が記載されていますので、多くの方々にご覧いただければと思います。

インターンシップ事例の紹介

こうした活動を通して企業からはどのような意見があがっているのでしょうか。

企業では若手社員を中心にこうした学生の受け入れを行っていただいているようです。そうした若手社員とともに、研究チームの一員として学生を受け入れていただいているのですが、そのことによって若手社員にも活発なエネルギーが生まれ、チームとしての雰囲気も良くなっていると伺っています。

この活動がうまく継続されていく上での秘訣は何でしょうか。

この活動では何よりも学生と企業のマッチングが重要です。学生にとっては会社が何を博士後期課程の学生に期待しているのかということを意識する良いきっかけとなります。そして会社もこうした学生の参加により、博士後期課程の学生という存在を知り、どういうところで活躍してもらえる存在かということがわかります。

こうした企業・学生どちらにもよい効果を生み出すためにもマッチングが重要なのです。

今後この取り組みを続けていく上でどのような課題があるとお考えでしょうか。

この取り組みは良いものであるとわかっていただければ、学生も企業も参加いただけるものです。しかし現状としては、学生にとって研究の時間が減り、研究そのものが遅れてしまうのではないか、という不安があります。また学生が所属する研究室の教員が、学生が研究室に来なくなるということそのものへの不満を持つケースもあるようです。また企業側は当初受け入れていただくにあたって多少の難しさがあります。この取り組みは、イノベーションを生み出すことを目的としているため、将来的には知的財産の問題が発生しかねないということ、そして企業が学生に対し給料を支払うべきなのかという学生の待遇を巡る問題があります。

今後、C-ENGINEはどのように継続していくのでしょうか。

現在は「イノベーション」という言葉を聞いてもおわかりいただけるように、理系の博士後期課程を対象としています。それを今後は文系にも展開したいと考え、現在トライアル中です。

また、留学生を受け入れたいとの希望も企業からは寄せられているので、それについてもトライアル中です。現在は日本の大企業が多く参加いただいていますが、今後はベンチャー企業にも展開したいと考えています。これに関しては知名度という問題があるため、学生の参加希望等を見ながら考えたいと思います。

このお話を聞いていて、北野先生の大社接続に対する思いが伝わってきます。こうした取り組みを行う上でどのような問題意識をお持ちでしょうか。

博士後期課程に対する社会の捉え方に対して疑問を持っています。社会は博士後期課程の学生を研究の担い手としか見ていません。しかしこれから先、大学院を拡大した以上、大学のアウトプットとしての博士後期課程の学生の就職を大切に考えていく必要があると思います。

C-ENGINEについて、読者にどのようなことを伝えたいですか。

C-ENGINEは学生・企業共に満足できる取り組みです。それと同時に、学生が所属する研究室にもメリットがあるようです。例えば、インターンシップを終えて研究室に戻ってきた学生が、会社での人間関係に溶け込もうと努力した結果、周りの人々とうまくやっていこうとし始めたり、時間の管理が上手になったりといった効果が見られるそうです。インターンシップのテーマが、その後、共同研究に発展したケースもありますので、研究交流の機会と考えることもできます。

C-ENGINEという取り組みを通じて、どのような大学を目指していきたいと考えていますか。

大学院への進学率を上げたいと考えています。優秀な人材が、最も企業が求めている修士課程で卒業していくのではなく、博士後期課程で研究をし、専門性を高め、そうした知識を持って社会へ巣立っていく。そのような大学院を作り、安心して博士後期課程まで進学してもらえるようにしていきたいと考えています。

この取り組みに参加している企業一覧を見ていただくことでも、多くの企業が博士後期課程の学生を肯定的に捉え、必要としているということをわかっていただけるでしょう。安心して博士後期課程へ進学してもらうための1つのツールがC-ENGINEだとも言えるでしょう。

今後、京都大学でどのようにC-ENGINEを推進していきたいとお考えでしょうか。

京大生にとって、研究をいったんストップしてインターンシップに参加するという一歩を踏み出すことが難しいのが現状です。こうした取り組みには単位は出ませんが、キャリアを考える上での一歩として参加してもらえるように、これからこの事業に参加したくなるような仕掛けづくりが必要であると考えています。


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