京都大学高等教育研究開発推進センター 京都大学高等教育研究開発推進センター

Interview 04

経済学研究科 経済学部・経済学研究科学生相談室 室長

北田 雅 講師

PROFILE

1967年京都市生まれ。京都大学大学院経済学研究科、立命館大学大学院人間科学研究科にて学び、京都大学医学部附属病院総合臨床教育・研修センター教務職員として大学教員の職を開始する。その後、東北大学を経て、2011年より現職。共著書『職場のメンタルヘルス相談室―心のケアをささえる実践的Q&A』
経済学部における初年次教育「入門演習」の取り組み

「入門演習」という科目を始めるに至った経緯について教えて下さい。

これは私のアイデアではなく、私自身が赴任する前の2009年から行われていたものです。経済学部ではここ何年かは6種類の入試(理系入試、文系入試(一般入試)、論文入試(現在の特色入試)、外国人留学生特別選抜、三年次編入、外国学校出身者選抜)を行ってきておりますが、入門演習科目の開始当時は入試科目別でクラスおよび講義内容を決めていたようです。当時は、論文入試入学者に対しての理系科目の補講的側面もあったと聞いています。

多様な入試があるので、その特色にあわせた授業をしていこうということですね。

そうですね、ここ数年はそうした多様な入試を経て入学した学生同士に仲良くなってもらうことや協調性の涵養のため、入門演習においてグループワークを取り入れています。

授業を担当している10人の教員はどうやって選ばれるのですか。

基本的には希望する教員が担当しています。

担当している10名の先生それぞれのシラバスがあるというのが面白いですね。担当される先生方でそれぞれの味付けがあるのですね。

シラバス自体に違いはありませんが、多くの場合、担当教員の専門性が加味されます。内容の統一についての提案はありましたが、今のところは各教員の専門性を活かした基礎的内容を扱う、ということになっております。

そうすると、専門科目の基礎的な内容になってしまいそうですが、最低限共通化している部分はありますか。

科目の最終目標として、レポート作成能力の養成が挙げられます。具体的には、『アカデミックスキルズ』と『論文の教室』という書籍を用い、先行研究や参考となる研究を検索し剽窃することなくレポートに反映させること、そして、各専門科目単元にて提出が要求されるレポートを作成可能な能力を身につける、ということにしています。また、先ほども触れましたが、グループワークをするということも最低限の共通事項として決まっています。グループワークでは発表の機会を与えることも重要です。

いわゆるスタディスキルという部分だと思いますが、回数としての縛りはありますか。

その部分も、各教員に委ねられています。私は2回、グループワークにおける発表の機会を与えています。

先生同士の連携はどのように行っておられますか。

例年、第7回目の演習が行われる5〜6月に、演習の進度や各学生の学修状況、その年度に初めて科目を担当することとなった教員の所感等の情報交換を行い、連携を図っております。こうした連携の結果、現在では2回連続欠席の学生には担当教員からメールでの連絡を義務づけることになっております。効果があったとする教員の意見を参考に実施を義務づけることとなりました。

実際に導入してみた効果はいかがですか。

「入門演習」でつまずく学生は、3、4回生まで経済の専門科目が取れない状況に陥ってしまう傾向があることが、これまでの分析結果より明らかとなっています。担当教員からの連絡に学生からの返信がない場合も勿論ありますが、そのような場合は、状況に応じて担当教員に加え事務の方や学生相談室長の私から学生に連絡を入れる等の対応をしております。こうした試みにより早めにケアをすることによって、下宿先で遅くまで寝ていた学生に出席を促したり、孤立することを防いだりすることができていると考えております。

毎年、単位取得できない学生はどの程度おられますか。

入門演習に関しては、おかげさまで様々な試みにより減少傾向が明らかとなっています。去年は9割以上の学生が単位を取得しております。先生方も学生のケアには気を使って下さっていますし、入門演習の単位が取得できないと他の単位も取得できなくなる可能性が高まるという事実について説明することで、学生の意識にも変化がもたらされているのだろうと考えています。最近では、単位を落とす学生は最終レポートを提出しない者に限られてきました。今年(2018年度)の場合は3名おり、それも長期欠席者でした。

学生同士の関係性を作っていくのは大事だと思いますが、どのようにされていますか。

まずは他人の話に興味を持つ、反応を示すというところから始めることが良いだろうと思っています。私のクラスでは、入門演習における自己紹介や発表の時は、必ず一人1回以上質問するということを課しています。発表の機会を多くするため、ゴールデンウイークの後もスピーチを行ってもらっています。映画を観た、帰省した、行楽地に行ったなど、何でも良いので、同級生との共通点を見つけてほしいと考え、そのようにしております。

好きなことや共通点をもとに関係性を作っていくのはいいですね。そういう関係性が学業の成功にもつながってくると思われている先生方はあまり多くはないと思います。

4年間を乗り切る上で、孤独では難しいように感じます。(経済学部では)ゼミも必須ではないので、部活やサークルに所属していない学生は居場所の確保が特に難しいように感じます。

こうした取り組みは、学生の孤立化の抑止力になっていると思いますか。先生が担当しておられる(学部内の)学生相談室の立場も踏まえていかがでしょうか。

入門演習は1年次前期という時期に1限という時間帯にて行われる科目として設定しておりますが、学生相談室長の立場からすれば、1限から授業に出席するということも注視したいと考えています。1限から演習に出席するということについて、勿論学生は楽しそうには見えませんが(笑)、苦しそうにも見えません。少し大変だなという経験を共有することは、友達作りにも有効だろうとも考えています。

先ほども少しありましたが、データを結構とられていますね。その後の単位取得への影響など、特徴的な傾向などありますでしょうか。

入門演習でつまずくと、学年が進むにつれて専門科目の単位取得数に有意差が生じるというデータが得られています。

授業に積極的に取り組まない学生の原因は何だと思いますか。

なんとかなるだろうという、根拠のない自負・自信でしょうか。変にポジティブなところがあるとも感じておりまして、例えば卒業に必要な単位数の半分程度しか単位取得できていないのに、単位のことは気にしているのかしていないのか、強気で就活をしている学生も散見されるのです。

この授業が形骸化しないためのポイントなどありますか。

担当教員全員で話しあう機会を設けているという点です。先ほども触れましたが、5~6月の中間期に報告会を行っておりますし、さらに夏季休暇前後にも反省会を行い、担当教員全員がそれぞれの授業内容について報告することとなっております。毎年、教授・准教授の職位にある教員がその内容をとりまとめて下さっておりまして、それぞれの教員の授業内容をA4で2ページ程度の報告書として残しております。報告書形式で残すことにより後で振り返ることができますから、例えば、報告書に「学生にメールを出して出席を促したことが効果的であった」という内容が書かれていること踏まえ、報告会でその内容を再度取り上げ、次年度からの制度化について審議可能となった事例などが、形骸化を防ぐことが出来ている良い例かと思います。

現在、取り組んでおられることはありますか。

学生相談室長として取扱っているプロジェクトとして、学部学生の入学時学生生活に関するアンケートが4年分集まりましたので、単位取得数不足や4年間での卒業の可否等の学業不振を引き起こす原因として関連性があるのかどうかということを解析する方向でおります。原因となり得る因子が判明しましたら、学業不振に陥る可能性が高いと考えられる学生に対し可能な限り早い段階で様々なレベルでの介入を開始することで、学業不振に陥ることを防ぎ、進級と4年間での卒業をサポートできればと考えております。

(収録日2018年7月13日)


インタビュー一覧へ

top