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Interview 01

教育学研究科

服部 憲児 准教授

PROFILE

1967年岡山県生まれ。京都大学教育学部・大学院教育学研究科にて学び、95年より広島大学大学教育研究センター助手として大学教員の職をスタートする。その後、宮崎大学、大阪教育大学、大阪大学を経て2013年より現職。著書に『フランスCNEによる大学評価の研究』(大阪大学出版会)。
教育学部における探究型初年次専門科目「教育研究入門」のデザインと効果

「教育研究入門」はどのような授業でしょうか。

この授業は1回生に配当されている専門科目のうちの1つで、1回生が教育学や心理学の専門領域に触れることができる唯一の科目です。これら領域に慣れ、興味を持つために設定されていて、教育学部の入学者全員が受ける必修科目であることから、教育学部の中で重要な科目として位置づけられています。

2016年度から大幅にリニューアルされましたが、どういう経緯があったのでしょうか?

これまでは座学中心で行われてきた授業でしたが、高校も含めて探究型の授業が広まりつつあることや、京都大学でも入試改革の一環として特色入試が始まったことが背景としてあります。そこで、教育学や心理学を熱心に学びたいと思って入ってきた1回生に対し、能動的に学ぶ機会を与え、モチベーションを維持する必要があるのではないか、と考えました。ただし、カリキュラムそのものを調整するとなると時間がかかるので、元々あった教育研究入門をリニューアルすることが現実的ではないか、となりました。

リニューアルする上で大事にした点は何でしょうか?

最も大事にした点は、学生に主体的に学んでもらう、というところです。またその上で、この授業を通して、うまくいかないもどかしさを体感してもらいたかったということもあります。研究は簡単ではないということを知った上で、それをどうにかしようとすること、研究の奥の深さを体感してもらうこと、その過程で発生する欲求不満や失敗も経験してほしいと思いました。

具体的にどんな方法で授業を運営されましたか?

大枠としては学生主体で取り組んでもらうことを考えました。そのために必要となる文献検索や不正防止等については最初に説明した上で、学生に任せます。より具体的には、学生65人を13のグループに分けて、テーマを決めて主体的に研究に取り組んでもらいます。6人のTAと3名の教員とで毎回議論・調整しながら進めていきました。

実際に授業を実施してみてどうでしたか?

教員としての一番の感想は、教えていて面白かったということに尽きます。受講生たちがたいへん熱心でした。他の先生の授業運営における工夫を知ることもできました。授業における話し方や説明の仕方、関心のひきつけ方といったものが勉強になりました。また一緒にやっていると教員同士もアイデアがどんどん出てくるので、参考になります。

この授業の到達目標は何を想定されていたのでしょうか?

インタビュアー:山田剛史 准教授

この授業を通して、研究というものはうまくいかない、難しい、ということを理解してほしいと思っていました。実際、グループでの研究を発表し、それに対してコメントをしてもらうという過程を通して、研究としての普遍化の難しさや文献調査の不充分さに気付いてもらうことができ、また当初たてた問いと答えがずれたりといった、研究者が必ず一度は通る道を1回生の段階で体感したということが、今後に活きてくるのではないかと考えています。

グループで取り組ませたということにはどのような意図があったのでしょうか?

まず、お互いに刺激をしあってほしいということが挙げられます。どのような進路選択をする上でも、これから社会に出る上で人の意見を聞くことは大切です。どのような進路選択をしたとしても、こうした経験が生かされるのではないか、と考えています。

リニューアルして新しく出てきた課題とはどのようなものでしょうか?

少し学生にかかる負荷が大きかったと思います。というのも、内容が濃いものであったために、時間内で終わらず、時間外でやってもらうことが多かったためです。またテーマ選択や研究手法に関してどの程度教員が介入するのか、という点においても考えるべき点があるように思われます。

教員の学生に対する最適なかかわり方という点が難しいですね。

教員としてはこうすればいいな、と思っていても、言うことが学生たちにとってプラスになるのかどうかという点が難しいです。そうした点において昨年度はTAの力もまた大きかったように思います。

TAに対しては何を求めたのでしょうか?

学生と年齢が近いので、教員にはハードルが高いこともTAになら聞けるのではないか、と思っていました。TAは学部時代にうまくできなかったこともわかっているので、学生がほしいアドバイスを提供する役割もまた果たしてもらえるのでは、と。

知識がないのに研究はできないのでは?という意見が予想されますが、知識を詰め込む前にこういう形で設計した意図はどこにあるのでしょうか?

それは極めて簡単なことでして、学生に知識がないままに研究させるという体験をしてもらうことによって、研究には知識も必要であることに気付いてくれるということそのものに意味があると考えています。そうした意味においては、この授業を4年間の大学での学びにおける先行投資とも位置付けています。

これからの教育研究入門の構想は?

すべての教員がこの授業を担当してほしいと考えています。というのも、この授業を担当することで、1回生からの成長プロセスを見ることができるというメリットがあります。学生に刺激を与えればこのように変わる、ということが実感でき、教員が学生に適切に関わることで、学生がよく伸びることを知ることができます。教員にとって、同僚と分担するのではなく、一緒に1つの授業を作り上げるという過程そのものが刺激になります。学生からも多くの課題もまた提示されましたが、授業全体を通して肯定的に評価してくれたことを実感できることもまた、教員にとってのフィードバックとなります。一方で、教育学部は学部規模が大きくないために、どうしても他の業務との掛け持ちになってしまいます。引き継ぎ等をきちんと継続して行うためには、ゆとりも必要になります。そのため、もう少し人員が必要ではないか、とは感じました。

そうした中でもなぜこういう取り組みをしていこうと思われたのでしょうか?

私たち研究者は、もちろん研究を世に出すことも仕事です。しかし私たちの代のみで研究が完結するわけではありません。先人を踏み台にしてより良い研究を世に送り出していくために、次の世代を育てるということが大切だと考えています。

こうした授業を運営する上で心がけていることとは何でしょうか?

学生に対して、教員が最初からできないのではないか、と思わず、なんでもやらしてみることが大切です。つまり学生への信頼がベースにあります。

こうした取り組みを今後拡大するにはどうすればよいでしょうか?

教員はそもそも研究を継続したくて教員になっているのかもしれません。だからこそ1回生の専門科目に対する熱い興味を持った学生に対して、教員の専門性を生かした授業運営を行い、自らの研究を伝えるという方向性を持った授業を展開する。そのことによって、教員にとっては研究を伝達し促進することができますし、学生にとっても教員の研究について詳しく知ることができるため、お互いによい影響を及ぼすのではないかと思います。そうした研究と教育の両輪を回すことを心がけたFDにつなげていけるとよいのではないか、と考えています。

関連情報
  • 服部憲児 教育学部における「教育研究入門1」のリニューアルについて 第20回京都大学全学教育シンポジウム報告書、pp.107-113.(2017年3月)報告書PDF
  • 服部憲児・山田剛史 高大接続を視野に入れた探究型初年次専門科目の設計と評価:京都大学教育学部「教育研究入門」における実践(1) 第22回大学教育研究フォーラム発表論文集、366-367.(2017年3月20日;京都大学)論文集PDF
  •  山田剛史・服部憲児 高大接続を視野に入れた探究型初年次専門科目の設計と評価:京都大学教育学部「教育研究入門」における実践(2) 第22回大学教育研究フォーラム発表論文集、368-369.(2017年3月20日;京都大学)論文集PDF

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