京都大学⾼等教育研究開発推進センター 京都大学⾼等教育研究開発推進センター

Interview 02

薬学研究科

高須 清誠 教授・山下 富義 教授

PROFILE

(高須教授)1970年京都府生まれ。京都大学薬学部・大学院薬学研究科にて学ぶ。卒業後、米国カンザス州立大学、東北大学を経て、2007年より京都大学に准教授として就任。2011年より現職。

(山下教授)1965年滋賀県生まれ。京都大学薬学部・大学院薬学研究科にて学ぶ。卒業後、米国南カリフォルニア大学での留学を経たのちに、1997年より京都大学に助教授として就任(2007年准教授に改称)。2016年より現職。
薬学部における初年次科目「薬学研究SGD演習」の取り組み

「SGD演習」はどのような授業でしょうか。

(山下)1回生に配当されている初年次科目の1つで、研究者や医療従事者をめざす学生としての、コミュニケーション技術の獲得、論理的思考力の醸成、課題発掘・解決能力の育成、グループワークの体験などを目的としています。
前期の水曜4・5限の2コマ続きの授業として実施されており、必修科目ではないものの、薬学部新入生86人中83人が履修しており、学部として強く履修を推奨する科目です。
SGDとはSmall Group Discussionの略で、学生4~5人の少人数グループを作り、だいたい、約20人ずつ4つの教室に分かれて行っています。授業内容によっては、約40人ずつ2教室でやることもあります。
授業方法としては、ブレインストーミングやKJ法、ディベート、インタビュー、プレゼンテーションなど、いわゆるアクティブラーニングの方法を取り入れています。

今年度大幅にリニューアルされたということですが、リニューアルに至るまでにどういう経緯があったのでしょうか。

(高須)薬学部は主に創薬研究者を育成する薬科学科(4年制、修士課程進学を想定)と主に薬剤師資格をもつ臨床研究者を養成する薬学科(6年制)に分かれています。これまでは入試段階から学科に分かれていたのですが、今年度の一般入試から学科一括で募集し、3回生の終わりに薬科学科と薬学科に分かれることになりました。それに伴いこの授業も、薬学部新入生全員に向けた初年次教育としてリニューアルすることにしました。
これまで、SGD演習は薬学科の学生のみを対象にして行っていたのですが、今回のリニューアルでは薬学部の学生全体を対象に、研究者・医療従事者としての基礎を培い、将来の見通しをもたせることを念頭において行っています。
本来であれば、必修科目にしたいところですが、必修にした場合この授業の単位を落としたことで進級できなくなる学生が出ると困るということ、また、京都大学に入学してくる学生の中には、こうしたアクティブラーニング型の授業そのものが苦手な学生もいるだろうということ、そして教員も今年度はじめて運営することなどから、今年度は必修ではなく履修を強く推奨するにとどめています。

リニューアルする上で大事にされた点はどんなことでしょうか。

(高須)昨年までの薬学科の学生を見ていて、SGD演習を受講した学生の多くは、後に研究室に配属されてからディスカッション能力が高く、わからないことが出てきたら教え合うなど学習コミュニティもできているということに気がついていました。そのため今回のリニューアルでも、学生同士の距離を近づける、そしてできれば学生と教員の距離をも近づけるということを心がけています。
その上で、動物実験の是非など、薬学部の学生だからこそできる議論を行い、研究マインドを身につけさせるということをめざしています。

(山下)答えのないことが世の中にはあって、それを自分たちが解決していかなければならない。学生自身がそういう思いを自分の中に形成できるということが大事かなと。高校までは答えのあることを一生懸命やってきたけれど、社会の問題は多様で、一人一違う価値観を持っていて、それを吸収して自分がどう振る舞うべきかを理解できるようになってほしいと思っています。

複数の教員で企画・運営されているということですが、どんな点でご苦労がありましたか。

(高須)薬学部の改組に伴って、カリキュラムを変更する必要があり、その結果、教務委員会の内部で若い教授(山下先生、高須先生)を中心にグランドデザインを作り、柿澤先生、矢野先生、津田先生を交えて5名でワーキンググループを構成することになりました。物理化学系、有機化学系、医療薬学系、生命科学系、それぞれの中から教務委員長の指名で選ばれたメンバーです。ディベートや研究室訪問といった取り組みを取り入れた初年次教育になるよう、1年以上にわたってこの授業を企画してきました。
SGD演習にかかわる教員は全体で十数名必要で、ワーキンググループの方から各研究室の先生に、原則3年間やっていただきたいということで依頼しました。教員での意識統一が難しいなと感じています。まず今年度は初年度ということで、準備が大変でした。まったく新しい試みとしてのリニューアルであることに加えて、人数も増え、そして主要教員間でのすり合わせ等、問題も多かったように思います。しかし、この授業をやってみて、実際学生の反応や先生方の反応を見る中で、よりよい学習環境を作り上げられているのではないか、と感じています。

(山下)たたき台をワーキンググループで作って、それに対して担当する先生から意見をもらい、更新したものを授業の前に共有して、こういうふうに進めましょうということでやってきました。毎週、だいたい授業の前日夜に1-2時間を使って。当日は早めに集まって、配布資料の確認をしています。

(高須)企画する側は非常に大変で、授業を担当する先生は、それを理解してどう修正して、自分の授業に生かすかということで、もがいておられるかな、と。

この授業を通して学生にどのように成長してほしいとお考えでしょうか。

(高須)この授業のもともとの狙いとしては、薬学部の学生にもっと自学自習ということを心がけてほしいと思ったところにあるのですが、やはり教員側にとっても新たな試みであったことから、教員側から課題を出しすぎているようにも感じています。これまで一方的な講義形式に慣れてきた教員にとっては、課題の出し方についても工夫が必要であるということを学ぶ、良い機会となったように感じています。京都大学には学生が主体となって学びを深められるような環境が多く存在していますので、そうした施設を使ってもらえるよう、来年度以降、学生同士の授業外学習を促すようなしかけも取り入れていきたいと考えています。
また、この授業をきっかけとして、専門科目の勉強等においても、今後勉強会を実施するようなコミュニティの形成を願っています。

実際に授業を実施してみて教員間ではどのように感じておられますか。

(高須)授業の中に研究室訪問を入れているので、薬学部の教員ほぼ全員がこの授業にかかわることになるのですが、インタビューされる教員も含めて教員全体で意識を統一しておくことが必要だと感じました。授業を企画した側としては、学生たちがインタビューを通じて自ら情報を収集し、まとめてほしいと考えていたのですが、訪問先の教員の方が先立って情報を与えてしまう場合も少なくないようです。

(山下)薬学部の教員は講義形式で一方向的に知識を伝達することが多いため、学生に考えさせるということに慣れていないのかもしれません。

(高須)授業を担当している教員の間では意識の統一はできているものの、打ち合わせ等に時間を割く必要があり、負担は大きくなっています。加えて、授業の運営において、ディスカッションの方法等には慣れていない教員もいるので、多少なりともクラスによる違いが出てしまっています。
一方で、授業を参観にこられた教員から、学生が積極的に発言をしていることを評価いただいたりと、うれしい点も多いです。毎年、5月の初めに薬学部全体で新入生向けに合宿研修を行っているのですが、今年度は、グループワークが最初からスムーズにできて、SGD演習の経験が生きているなと感じました。

実際に授業を運営してみて、学生の反応等どのように捉えておられますか。

(山下)グループワークで中心的な役割をする学生にやや片寄りが見られるので、自分が「話し合いに貢献する」だけでなく「他者の貢献を促す・巻き込む」のもリーダーシップやチームワークには必要だということを、次の授業ではあらためて確認したいと思っています。そのためには、どのようなルーブリックが使用しやすいのか、ピア評価にあたりどのように学生に説明していくべきなのか、といった点について、もう少し教員間で話し合うと同時に、松下先生のお力もお借りして、学期途中でも常に見直していきたいと考えています。
難しい点として、最近高校でどの程度アクティブラーニングを経験してきたか、によって、こういった大学での授業への参加状況にも差がついてしまうということが挙げられます。SGHやSSHといった高校に通っていた生徒とそうでない生徒では、大学でのアクティブラーニングにおいてこれほどまでにグループワークやパワーポイントを使用した発表の際にレベル差がつくものなのか、ということも実感しています。そうした差のある学生同士であってもうまくグループワークを運営していけるように教員側も、アクティブラーニングそのものの運営を学ぶ必要があると考えています。

今後、もっとこうしていきたいというような構想があれば教えてください。

(高須)これまで、薬学部の学生は、その多くがすぐに答えを知りたがる傾向にありました。
しかし創薬研究を念頭において考えたときに、学生自身に、答えがないことが世の中にはあるのだということ、そしてそれを一つ一つ解決していくことが大切だということを、ぜひ理解してもらいたいと思っています。
今後3年間は同じメンバーで授業を運営していく予定にしていますので、少しずつ授業運営や評価についても学生からアンケートを取る等しながら、改良していきたいと考えています。

※薬学部初年次科目「SGD演習」の詳細はこちらからご覧いただけます。

左から、山下富義教授、高須清誠教授、松下佳代教授、長沼祥太郎研究員
撮影:木崎稜平 (京都大学高等教育研究開発推進センター技術補佐員)

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