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Interview 10

教育学研究科 岡邊健 准教授

PROFILE

1975生まれ。東京大学教育学部卒業。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。中央大学博士(社会学)。科学警察研究所防犯少年部や同所犯罪行動科学部研究員、山口大学人文学部講師、准教授を経て、2017年より現職。犯罪、少年非行に関する社会学的研究を行なう。特に少年非行からの離脱(デジスタンス)に関心を持っている。

教育学研究科・教育学部はコロナ禍の対応について、新型コロナウイルス対応ワーキンググループを立ち上げ、オンライン授業や新入生の支援など、組織的に取り組んできました。さまざまな取り組みの中から特にオンライン授業支援について、岡邊先生に学術情報整備委員長としての経験をお話いただきました。

危機感の共有と支援体制の構築

授業がオンラインに切り替わることが想定され始めたころに、教育学研究科は、どのような体制作りをし、どのようなポイントで対応していくことを検討されたのでしょうか?

まず体制としては、3月13日に新型コロナウイルス対応ワーキンググループ(以下、WG)が立ち上げられ、第1回の会合を開いています。WGのメンバーには研究科長、副研究科長、教務、学生の各委員長、教育制度委員長、事務長、事務方が入り、第2回より学術情報整備委員会委員長である私と研究科内の情報担当助教が加わりました。このWGのメンバーが教務関係だけではなく、研究科内のさまざまな部署の委員が集まって構成されたことのメリットは非常に大きかったと思います。コロナ禍での課題は状況に応じて変化していったので、その都度、議論をしながら対策を取ることができました。

3月は本当に慌ただしい日々が続きました。3月初頭ごろから大学の授業がオンラインになる可能性が浮上する中、全学的には4月から通常通りの対面授業を実施するという方針であったため、第1回のWGではコロナ感染拡大予防の措置をしながら対面授業を行うための方策について話し合われました。しかし、2回目以降でオンライン授業という方法を何らか形で取り入れる必要が出てくる可能性があるだろうということが明らかになりつつあったため、それに向けての準備を進めていくことが重要課題であることが共有されました。幸い、私自身はPandAもZoomも利用したことがあったため、オンライン授業のやり方のイメージはすぐに持つことができました。

3月の下旬にWGで意識されていたのは「いかにして、教員に危機意識を持ってもらうか」という点でした。3月26日には1回目のZoom体験会を開催し、こういうものがあるということを知ってもらうことから始めました。3月28日には、メール通信の第1報を送信しています。PandAやZoomの学内講習会、高等教育研究開発推進センターの立ち上げた授業支援サイトTeaching Onlineなどについて案内しました。メール通信はその後も続き、現在35報まで送信しています。

メール通信もはじめは講習会の案内をするものでしたが、第3報を出した3月29日からは強い文調で講習会への参加を促すようになりました。実は、29日は京都産業大学でクラスターが発生し、WGメンバーの緊張感も一気に高まった日でもあるのです。

まずは危機意識を共有する、というところから始まったのですね。オンライン授業の実践にあたり、研究科の先生方が直面するであろう問題としては、どのようなものを想定され、どのような対応を考えられたのでしょうか?

そうですね。当時、オンライン授業を行うために使うであろう二大ツールであるPandAとZoomについて、多くの先生方はあまりご存知ではない状況だと考えました。そこで、PandAというシステムとZoomという仕組みの使い方を学んでもらうこと最優先事項としました。

PandAとZoomを使えるようになってもらうために、学内講習会とは別に学部内でも独自の講習会を行うこととし、また、ICT支援員を配置することにしました。ICT支援員というのはPandAのコースサイトの作成やZoomの初歩的な使い方などをサポートする大学院生のことです。

大学院生をTAとして雇用し、PandAとZoomについて学んでもらい、希望する教員の支援をする、というアイディアは3月のかなり早い段階から提唱されていました。研究科内には情報担当助教がいますが、オンライン授業に関する問い合わせがそちらに殺到することが予想されたため、支援体制を強化することを目的としてICT支援員を育成、配置することになったのです。育成としては、4月に90分の講習会を2回実施し、PandAとZoomの基本的な機能についての説明をしました。ICT支援員の配置を希望される先生には、希望する支援の概要をあらかじめお聞きし、ICT支援員とのマッチングをしました。ICT支援員で解決できない問題については、随時メール等でやりとりしながら進めていきました。結果的に、ICT支援員の活躍で、多くの先生方がオンライン授業に向けての準備を円滑に進めることができたと思います。

支援を通じて蓄積された情報などはどうされていますか?

残念ながら記録としてきっちりとした形では残していません。ただ、6月ごろには、教員が直面するであろう課題についてはほぼ把握できている状態になりましたので、PandAに教育学研究科の教員用サポートサイトを立ち上げ、そこに情報を集約するようにしました。よくある質問と答えやメール通信から必要な内容について、サイトに掲載しています。サイトは、情報担当助教の久富先生と連携して運営しています。

学生のケア

教育学部が行った学生サポートについて教えてください。

学生のケア、特に新入生のサポートの必要性については、やはりかなり早い段階から議論されていました。新入生の場合、入学式が中止、新入生ガイダンスもオンラインでの開催となり、キャンパスに一度も来ないまま前期が始まるということで、大学での授業をどう受ければいいのかわからない、友達もできないといった不安の声も聞こえてきていました。そこで、まずPandAに新入生特設サイトを開設しました。一回生全員を登録し、チャットルームやフォーラムなどを活用して、交流を促すようにしました。また、4月27日にはZoomでの交流会を開催しました。その後、もう少し定期的に開催するイベントとして教員・研究室紹介という企画を始めました。これは教育実践コラボレーションセンターに主催をお願いし、お昼休みの時間帯か夕方5限後を使って、教員あるいは研究室単位でお話をしてもらう、というものです。全部で18回開催しました。参加した学生がそれほど多くない回もありましたが、毎回参加があり、1回生は研究の話などを熱心に聞いていました。

オンライン授業の効果

今回、全ての教員が一斉に何らかオンライン授業を実践することになりましたが、先生方のオンライン授業に対する評価については、どんな声がきかれていますか?

そうですね、オンライン授業でもできることが結構あるんだ、という感想を多くの先生方が感覚的に抱かれたことと思います。私自身も、オンラインでも意外とできるんだ、と思いました。私の近くにいる学生の反応でみる限り、総じていうと学生の評価も悪くなかったです。ただオンライン授業の教育効果については、軽々しく言えることではなく、しっかり調査しなければいけないと考えています。

関連して、特に評価をどうするか、という問題については大変難しく、結論が出ないままになっています。例えば、私自身の授業の場合、これまでは定期試験によって学習の到達度を測っていましたが、オンラインではできなかったため、10分程度で書かせるような課題を毎回の授業内で実施しました。しかし、これで本当にテストで測るのと同等の到達度を測れているのか、という点については心許ないところがありました。多分、多くの先生方が同じように悩まれているのではないかと思います。いずれにしろ、これからもう少し丁寧にエビデンスを揃えて検証をしていく必要がありますね。

 

今後について

今回はコロナ感染拡大予防のため、という条件下でのオンライン授業が導入されましたが、今後、研究科としてオンライン授業の扱いについてはどのように検討していく予定なのでしょうか?

今回は緊急の対応だったわけですが、この緊急のオンライン授業対応ということを契機にして、今後の教育のあり方について考えていかなければいけないのだと思います。例えば、オンライン授業における授業設計や教授法、グループ活動の組み立て方、評価方法などはたくさんのバリエーションがあるのでしょうが、今回の緊急対応にあたっては、そういったことを吟味して自身の授業を設計するような余裕はあまりなかったことと思われます。

いまでも覚えていますが、3月にWGが立ち上げられた時、教育を止めちゃいけない、研究を止めちゃいけない、という問題意識がかなり強く共有されていました。その意識は今も続いていて、研究科の構成員全体に共有されていると思います。コロナ禍の影響はまだまだ続くという見通しをもっており、現在でもWGは月一回以上継続して開催されています。メンタルの問題や研究活動の問題など、解決することが難しい問題は山積していますが、この気持ちを持って対応を模索していくことが大切だと考えています。


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