京都大学⾼等教育研究開発推進センター 京都大学⾼等教育研究開発推進センター

Interview 06

北野正雄 教育担当理事・副学長

PROFILE

1952年、京都府生まれ。京都大学工学部卒業、大学院工学研究科修士課程修了。工学博士(京都大学)。京都大学大学院工学研究科教授、工学研究科長・工学部長、国際高等教育院長などを経て2014年から現職(教育・情報・評価担当)。専門は電磁波工学・量子エレクトロニクス・量子光学。

本インタビューは『京都大学のFD 2019』に掲載されたインタビューを転載したものです。

北野正雄先生が教育担当理事・副学長となってから既に5年が経ちました。そこで、この機会にこれまでのご経験を振り返りつつ、本学の教育の現状と成果、課題、そして今後の本学の教育に対する期待について伺いました。

徐々にみえてきた成果

この5年間を振り返り、本学の教育がどう変わったかについて、お話しいただけますか。

私が教育担当理事になったのが2014年10月です。その頃はちょうど全学共通教育を担う国際高等教育院(以下、「教育院」と略)の活動が軌道に乗り出してきた時期でした。それ以前から続く課題として、全学共通教育のカリキュラムを再編したり、各研究科・学部・研究所といった各部局推薦のもと外国人教員を新たに雇用して、教育院における英語での授業を担当してもらうという取り組みを始めました。当初はなかなか全学的な理解を得ることができず、苦労した覚えがあります。

大学院教育では、これは私の就任以前から動いていたものですが、リーディング大学院の取り組みが本格化していました。また、高大連携・接続の視点では、ELCASが理学部から全学組織として大学本部に移管されたり、入試改革の一環として特色入試や吉田カレッジ(Kyoto iUP)が始まったのも、ここ数年のことです。国際連携という観点では、SGU(スーパーグローバル大学創生支援)が始まり、そこでは主にジョイント・ディグリーやダブル・ディグリーの制度創設といった点で関わってきました。

大学全体としては、コース・ツリーの策定や3ポリシーの見直しが記憶に新しいです。

それぞれに大変な仕事ではあったのですが、徐々にその成果が見えてきています。例えば、特色入試で入学した学生のその後です。追跡調査の結果、全体として、学業成績がよいだけでなく、授業ならびに課外活動にも積極的に参加していることがわかりました。彼らを中心としたグループが、15年ぶりにNHK学生ロボットコンテストに出場し、そのまま全国大会で優勝するなど、わかりやすい成果も出てきています。

Kyoto iUPの取り組みでは、2019年度の予備課程の入学者15名に対して約220名の応募者がありました。ASEANを中心に各国の上位高校のしかも上位層が応募してくれており、本当にやる気のある優秀な学生を選ぶことができました。2020年度分には350名を超える応募者があったと聞いています。

先ほど「苦労」と仰いましたが、何がもっとも大変でしたか。

決まり文句のようになりますが、本学の場合、各部局が責任をもって教育を行う体制のため、本部が主導して、あるいは全学で何かをやりましょうといってもなかなか動いてくれないという点です。

これはもちろんいいことでもあって、それだけ各部局が自立的に教育を実施する体制ができているということです。ただ、大学外部から、「大学全体として何を行いますか」「どのような考え方で教育を実施しますか」「大学全体の評価はどうなっていますか」と常に問われ続けているなかにあって、これまでのように各部局が一つのスクールとして動き続けることはやはり困難です。

大学入試でも、建前としては各学部が実施しているわけですが、実際には大学全体として実施していますよね。そうするといくら部局がそれぞれでうまくやっていたとしても、大学全体としてはうまく機能しない場合もあります。各部局や各教員といった「個」を尊重しながら、大学「全体」としてどう動くべきか、という点についてはいつも頭を悩ませています。

全体をみるためにもデータが重要に

個と全体、どちらかだけではダメで、その間を狙ってということですね。

はい。まさしく両者の間を狙う必要があります。それがなかなか難しい仕事で、外部からはよく「もっと中央集権的にやるべき」や、「本部のガバナンスを利かせる必要がある」といった声を受けます。その一方で学内からも、絶えず苦情や批判があります。本学の場合、研究はもちろん教育にも一家言をもった独立心の強い先生が多いので、トップダウンでやることはなおさら難しいです。

もちろん私たち執行部の人間も、トップダウンで物事を進めることがいいことだとは思っていません。いつも言っていることですが、本学の強みは、特徴のある非常によい教育を、教員一人一人が行なっている点にあります。私も実際に拝見することがあるのですが、単なるパフォーマンスのような授業ではなく、趣向を凝らした、我々教員が聞いても面白い授業を、それぞれの教員が実施しています。

ただ、このように個々の授業がよくても、大学全体という視点では状況は異なります。大学全体では、まだまだ改善すべき余地があるように思います。全体を一つのシステムと捉え、データに基づきつつ、教育をよりよいものにしていく必要があります。

データに基づいて、ですか。

北野先生が作成したStudent Flowの図(その一例)

はい。印象のみに基づいて話を進めても仕方ないので、これまでの成果や現状の課題を可視化するためにもデータは重要な存在です。その際、何を浮き彫りにしたいかという意図が大事です。意図もないまま、山ほどExcelの表やグラフを作ってもあまり意味がありません。

全体を見る立場になってからこれまでに、学部入試の合格者ごとの得点と合格最低点をもとに、合格上位層と下位層の分布を表したグラフや、各学部・研究科ごとに、学部に入学してから卒業、大学院への進学、就職といった一連の流れが学生数とともに視覚的にわかるようにした図、登録単位数と取得単位数の関係を表したグラフなど、いろいろなグラフや図を作成してきました。その結果、合格者の二極化の問題や、定員充足率以外の大学院が抱える問題、CAP制の合理性などが見えてきました。これらは必要となるデータを抽出して可視化することで初めてわかるものでした。

ただ、そのようなデータを見せたからといって、みんながすぐに「なるほど」といって協力してくれるわけではありません。理解を得るにはやはり時間がかかります。

自由であるためにもクリエイティビティを発揮して

全体と個の関係について教えてください。全体の前には個の自由が失われてもいい、そのようにお考えというわけではないですよね。

もちろんそのようなことは考えていません。むしろ逆です。個々が自由であるためにも、逆説的ではありますが、全体を整理、最適化するための枠組みや制約が必要だと考えているのです。例えば全学共通教育のカリキュラムを再編するにあたっては、時間割や科目をだいぶん整理し、全体の科目数も減らしました。

先生方のなかには「学生の選択の自由を奪うなんてとんでもない」と仰る方も多いです。ただそれは、学生時代、先生方にその自由を活かせる力があったからそう仰るだけです。実際には、自由の前で易きに流れて全く勉強しないまま卒業したり、あるいは登録科目は多いのに単位を取得できず留年するような学生も沢山います。そのような学生に対しては、適切な整理をしてあげる必要があります。あれもこれもではなく、一つ一つの科目を丁寧に学ばせることが大事になります。実際、整理したことで、個々の学生にとってどれが必要な科目でどの授業をとるとよいかが明確にわかるようになり、全体としては有益な結果となりました。

この自由のための枠組みや制約を教育システムに導入するという点については、個々のクリエイティビティをまだ十分に発揮できていないように思います。教育が呼び水となって優秀な若者を本学に惹きつけることができたら、それは研究力の底上げに即つながってきます。そう考えると、教育にもクリエイティビティを発揮する価値があると思いませんか。

最後に、これからの本学の教育に期待することを伺えますか。

任期はまだ少し残っているのでその間は頑張りたいと思いますが、今後への期待についてせっかくの機会なのでお答えします。やはりお伝えしたいのは、京都大学という場の重要性です。オープンなシステムとして存在し、そこに人が集まってワーワー言っては出ていく、そのような人の流れの結節点にある「開放系」としての大学といいましょうか。そういう<場>としての重要性は今後も変わらないでしょうし、その維持に常に意識を向けておいてもらいたい
です。

人の流れのなかで大学ができているとしたら、その形は常に変化するものになります。そこですべてうまくいっているのならいいですが、もし問題があるなら、どうすればよりよい仕組みができるのか、一教員の立場なのか部局長のような立場なのか、あるいは執行部の一員としてなのかはわかりませんが、個々の立場から、自由な発想でその課題解決に取り組んでもらいたいです。

例えばですが、なんでも測ろうとする今の時代だからこそあえて入学者選抜でペーパーテストをやめてしまう、とか。常識にとらわれない発想を期待しています。幸い本学には、試行錯誤を許す力と風土がまだ残っています。自由な、京大的発想に基づく教育を期待したいです。

北野先生を囲んで、高等教育研究開発推進センターの田口真奈准教授(左)と鈴木健雄特定研究員(右)
撮影:木崎稜平 (京都大学高等教育研究開発推進センター教務補佐員)

(収録日2019年12月19日)


インタビュー一覧へ

top