京都大学高等教育研究開発推進センター 京都大学高等教育研究開発推進センター

カリキュラムは、最も広い意味では「学習者に与えられる学習経験の総体」を意味しています。大学は、さまざまな授業科目や研究指導、海外研修などを通して、学生を学び成長させるための学習経験の機会を提供します。それを自分の学習経験としてどう活かすかは最終的には学生の手にゆだねられていますが、学習経験の機会をどうデザインし提供するかは大学側で考えるべきことがらです。

以下では、カリキュラム・デザインのポイントについてご紹介します。


カリキュラムとは何か

まず、カリキュラムとは何か、それをどう表現するかを考えることから始めましょう。

1.1 カリキュラムとプログラム

  • カリキュラムは、最も広義では「学習者に与えられる学習経験の総体」を意味していますが、行政用語としては「教育課程」が使われます。これはカリキュラムの中でも特に制度化され計画化された部分をさしています。
  • 日本の場合、高校までの教育課程は、学習指導要領や検定教科書によって規定されています。それに対して、大学教育では、大学・学部等にかなり大きな教育課程編成権が与えられています。
  • 1991年の大学設置基準の改正(いわゆる「大綱化」)により、「大学は、当該大学、学部及び学科又は課程等の教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し、体系的に教育課程を編成するものとする」(第19条)とされました。まさに、「カリキュラムは大学・学部の教育意思の表現体」(寺﨑昌男)なのです。
  • カリキュラムに似た言葉に「プログラム」があります。プログラムは、一定の教育目的の下で授業科目(コースcourse)や学習活動などが一定のまとまりをもって組織化されたものです(例えば、「初年次教育プログラム」「学位プログラム」「海外研修プログラム」など)。

1.2 正課カリキュラムと準正課活動

  •  大学が提供する学習経験の機会は、大きく「正課カリキュラム」と「準正課活動(co-curricular activities)」に分けることができます。学生が大学という場で行う活動には、この他に、クラブ・サークル・自主ゼミ・自治活動などの「正課外活動(extra-curricular activities)」があります。正課外活動を支援することは、大学の重要な役割ですが、カリキュラムの中には含まれません。
  •  正課カリキュラムとは、大学設置基準上での「教育課程」のことです。単位が授与される授業科目(必修科目、選択科目及び自由科目)が体系的に配列されることによってできています。わが国は、「一単位の授業科目を45時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準」とし、124単位以上(医・歯・薬等の6年制課程を除く)の修得をもって卒業要件とする単位制度を取っています。
  • 一方、準正課活動とは、単位授与は行わないが大学・学部等が教育的意図をもって提供する教育・学習活動のことです。代表的な例に、地域での社会奉仕活動を通して学ぶサービス・ラーニングがあります。他に、大学が機会を提供する海外研修、インターンシップ、ボランティア活動なども準正課活動です。ただし、これらの活動の中には、単位化され正課カリキュラムに組み込まれているものもあります。

1.3 学位プログラム

  • 学位プログラムとは、文字通り、学位(学士・修士・博士・専門職学位)を授与するためのプログラムのことです。
  •  京都大学が授与している学位は、学士、修士、博士、修士(専門職)および法務博士(専門職)であり、その内訳は「京都大学学位規程」に書かれています。2012年度からは、学際的な学位プログラムとして、「デザイン学大学院連携プログラム」などの博士課程教育リーディングプログラムも提供されています。
  • 京都大学では基本的に、1学部は1種類の学位(ただし、医学部、薬学部は2種類の学位)を授与していますが、他の大学には、学科や専攻等ごとに異なる学位を授与し、それにあわせて学位プログラムを提供しているところもあります。例えば、大阪大学では、学部37研究科108、あわせて145の学位 プログラムが展開されています。
  • なお、学位については1大学で授与する以外に、ジョイント・ディグリー制度(日本の大学と外国の大学が連携して教育課程を編成・実施し、連名で学位記を発する仕組み)、ダブル・ディグリー制度(複数の国内外の大学が、単位互換制度を利用して、学生に一定の期間において教育課程を修了させることにより、複数の学位を授与する仕組み)があります。京都大学でも、文学研究科でジョイント・ディグリー制度、エネルギー科学研究科でダブル・ディグリー制度を実施しています。

1.4 履修系統図(カリキュラム・マップ)

  •  履修系統図とは、「[学位プログラムにおいて]学生に身につけさせる知識・能力と授業科目との間の対応関係を示し、体系的な履修を促す体系図」の総称です(「質的転換答申」用語集)。いいかえれば、学位プログラムにおける授業科目間の関係と履修の順次性を表した図です。カリキュラムマップ、カリキュラムチャート、コースツリーといった呼称も使われています。
  •  京都大学では、2015年度からすべての学部でコースツリー(履修系統図)を公開しています(全学部のコースツリー)。また、2016年度からすべての大学院でカリキュラムを可視化し、公開しています(大学院コースツリー・カリキュラムマップ)。

カリキュラム・デザインの要件

日本の大学においてカリキュラム(教育課程)をデザインする際に考慮しなければならないのはどういう点でしょうか。

2.1 3つのポリシー

  • 3つのポリシーという考え方は、「将来像答申」(中央教育審議会「我が国の高等教育の将来像(答申)」2005年1月)で提唱されて以来、大学のカリキュラム・デザイン(教育課程編成)における中心的な考え方として政策的に普及が図られてきました。3つのポリシーは、2017年4月からは、各大学に対して策定・公表が法令上義務づけられています。
  1. ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)
    各大学学部・学科等の教育理念に基づき、どのような力を身に付けた者に卒業を認定し、学位を授与するのかを定める基本的な方針であり、学生の学修成果の目標ともなるもの。
  2. カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)
    ディプロマ・ポリシーの達成のために、どのような教育課程を編成し、どのような教育内容・方法を実施し、学修成果をどのように評価するのかを定める基本的な方針。
  3. アドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)
    各大学学部・学科等の教育理念、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ、どのように入学者を受け入れるかを定める基本的な方針であり、受け入れる学生に求める学習成果(「学力の3要素」*についてどのような成果を求めるか)を示すもの。 *①知識・技能、②思考力・判断力・表現力等の能力、③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度 (中央教育審議会大学分科会大学教育部会「ガイドライン」2016年3月より
  •  3つのポリシーは大学教育の出口(卒業)と入口(入学)、およびその間を埋めるカリキュラムについての方針であり、大学教育の質保証やカリキュラムの体系化・可視化を各大学に求めるものです。その根底には、「成果にもとづく教育(outcome-based education)」の考え方があります。
  •  京都大学の全学および各部局のポリシーは京都大学ウェブサイトで公開されています。

2.2 教育目標としての学習成果

  • 1990年代以降の「教員中心の教育(teacher-centered education)」から「学生中心の教育(student-centered education)」への転換の中で、「教員が何を教えた」かより「学生が何を学んだか」に目が向けられるようになってきました。
  • この流れの中で、教育目標も「学習成果」として表現されることが求められるようになっています。学習成果とは、「プログラムやコースなど、一定の学習期間終了時に、学習者が知り、理解し、行い、実演できることを期待される内容を言明したもの」(「学士課程答申」用語解説)です。ここで注意していただきたいのは、「学習成果」が学習の結果としてだけではなく、学習の目標としても使われるようになっていることです。
  • なお、行政用語では、大学の正課教育での学習成果を「学修成果」と表現していますが、このサイトでは、準正課活動を含めた学習成果を現すため、引用以外、すべて「学習成果」としています。

2.3 コンピテンス

  • 2000年代に入った頃から、学習成果を表すのに「コンピテンス」(能力、力)という言葉が使われることが世界的に多くなってきました。コンピテンスとは、「学位プログラムを履修した総合的な学習成果として、学生が獲得することが期待されている知識、スキル、態度などが有機的に結合したもの」を表します。
  • 学士課程答申(中央教育審議会「学士課程教育の構築に向けて(答申)2008年12月)では「学士力」という概念が提案されました。これは、「我が国の学士課程教育が共通して目指す学習成果」をさしており、具体的な中身としては、「知識・理解」「汎用的技能」「態度・志向性」「統合的な学習経験と創造的思考力」が試案的に示されています。この「学士力」は、アメリカの大学教育団体であるAAC&U(Association of American Colleges & Universities)の提唱する“Essential Learning Outcomes”を土台にして作られており、その意味では世界的動向を踏まえたものといえます。
  • 特徴的なのは、「知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能」としての「汎用的技能」(generic skills)が含まれていることです。汎用的技能としては、コミュニケーション・スキル、数量的スキル、情報リテラシー、論理的思考力、問題解決力が例示されています。
  • 一方、「知識・理解」をはじめ、専攻する学問分野によって異なる部分も多いことから、日本学術会議と連携しながら具体化が図られることになりました。

2.4 分野別参照基準

  • 日本学術会議では、文科省からの依頼に対し審議を行い、2010年7月に「回答 大学教育の分野別質保証の在り方について」を提出しました。この中では、各分野の教育課程編成上の参照基準として、以下のような内容を盛り込むことが提言されています。

① 当該学問分野の定義と固有の特性
② 当該学問分野で学生が身に付けるべき基本的な素養
(a)基本的な知識と理解
(b)基本的な能力:分野に固有の能力とジェネリックスキル
③ 学習方法及び学習成果の評価方法に関する基本的な考え方
④ 市民性の涵養をめぐる専門教育と教養教育との関わり

  • 現在、この参照基準の枠組みにそって、学問分野の参照基準が策定されています。2021年7月現在、経営学、言語・文学、法学、家政学、機械工学、数理科学、生物学、土木工学・建築学、経済学、地域研究、歴史学、材料工学、政治学、地理学、文化人類学、社会学、心理学、地球惑星科学、社会福祉学、電気電子工学、情報学、哲学、統計学、農学、物理学・天文学、計算力学、薬学、サービス学、歯学、看護学、医学、化学、教育学の計33分野の参照基準が公表されています(日本学術会議ウェブサイト)。この参照基準は、各学問分野でカリキュラムをデザインするときの確かな参考資料になります。

2.5 プログラム・デザインのプロセス

図1 プロフラム・デザインのプロセス
出典)Gonzalez & Wagenaar(2008,p.15)より抜粋の上、訳出

  • プログラム(学位プログラム)をデザインし、実施し、持続的に質を向上させていくには、図1のようなプロセスが必要になります。「学位プロフィール」とは、ディプロマ・ポリシーで掲げた各学位の特徴や要件のことです。
  • 「教授・学習アプローチの選択」については「授業のデザイン・方法」、「評価方法の選択」「プログラムの評価と改善」については3.6を参照してください。

カリキュラム・デザインに関連する論点

カリキュラム・デザインにおいては、その他にも考慮すべき点があります。

3.1 スコープ(範囲)とシークエンス(順序)

  • スコープはどのような範囲の授業科目(あるいは学習活動)を設定するのか、シークエンスはそれをどのような順序で配列するのかに関わっています。
  • シークエンスの問題として議論されてきたことがらに、教養教育(一般教育)と専門教育の関係があります。1991年の「大綱化」以後、授業科目の制度区分(一般教育、外国語、保健体育、専門教育)という縛りが廃止されたことによって、専門基礎教育が早い段階から行われるようになりました。また逆に、教養教育を受けるのは、ある程度、専門分野について学んでからの方がよいという考え方もあります。
  • 学士課程の早い時期に、仕事や学問の現場にふれさせ、将来への見通しと専門の学習への動機づけをもたせるというやり方が、現在、多くの分野で使われています。例えば、医療系の学部で行われている「アーリー・エクスポージャー(early exposure)」はその代表例です。アーリー・エクスポージャーとは、入学後の間もない時期に医療現場を体験する早期臨床体験学習のことです。その背後には、授業科目を〈基礎から応用へ〉〈理論から実践へ〉という一方向で配列するのではなく、基礎・理論と応用・実践を行き来させながら学習を深めていこうという考え方があります。

3.2 学期制と単位時間

  • カリキュラムをデザインするということは、入学から卒業までの時間をどう区切るかということでもあります。
  • 例えば、1年間を何学期に区切るかという問題があります。日本の場合、セメスター制(2学期制)の他、近年では、グローバル化対応などの理由で、クォーター制(4学期制)やターム制(3学期制)なども採り入れられつつあります。
  • また、1コマ(=1つの授業に要する時間)を何分にし、同一科目を1週間に何回行うかという問題もあります。日本の場合は1コマ90分を週1回というのが主流でしたが、最近では、学期制の変更に伴って、1コマ105分(例:東京大学)、週2回授業(例:広島大学)なども導入されています。

3.3 必修と選択

  • 大学の教育課程は、必修科目、選択科目、自由科目で構成されています。一定の教育目的の下で教育課程を編成しても、選択の自由が大きければ、学生が実際に経験するカリキュラムをコントロールする力は弱まります。ですが、必修ばかりにしてしまえば、学生に自分でカリキュラムをデザインさせることによって自立的・自律的な学習者を育てるということができなくなります。
  • 京都大学の学部でも、ほとんどの科目を必修にしている学部(例:医学部)からほとんどの科目を選択にしている学部(例:理学部)までさまざまです。
  • このジレンマに対して取られる一つの方法が、「コース制」です。コース制は、授業科目群からなる複数のコースをつくり、学生に選択させるものです。

*注意:この「コース」は、「コースツリー」の「コース」(英語のcourse:授業科目)とは別です。

3.4 学位の等級化

  • ユニバーサル化の中でとりわけ問題になってくるのが、学力や学習意欲などにおいて大きな多様性のある学生たちをどのように編制し、それぞれに応じたプログラムを準備するかということです。外国語科目や情報教育科目などでは開始前のテスト成績によってクラス分けを行うことがすでに一般化しています。
  • さらに、近年では、日本の大学においても、アメリカの「オナーズ・プログラム(honors program)」やイギリスの「優等学位(honors degree)」などを参考にして、優秀学生のための特別プログラムを設置しようとする取組が行われています(九州大学、立命館大学、愛媛大学、創価大学など)。オナーズ・プログラムとは、選抜された学生を対象に、少人数ゼミナール、個別指導、国際的活動、社会奉仕活動などからなる特別プログラムを実施するものです。このようにして、「多様性と卓越性の共存」を図ろうとしています。

3.5 カリキュラムをデザインする主体

  • カリキュラムをデザインする第一の主体は、いうまでもなく、大学・学部等の教育組織およびその教員団です。また、実際にカリキュラムを運用するにあたっては、職員との協働(教職協働)も不可欠です。
  • しかし、カリキュラム編成の主体は教職員だけではありません。カリキュラムがその教育目的を果たすのは、大学・学部等によって提供された授業科目の中から自らの履修科目を選択し、実際に履修・修得するという学生自身の作業を通じてです。
  • 大学のカリキュラムは、学生を介して初めてカリキュラムとして完成するという性格をもっています。大学のカリキュラムは厳密にいえば、あらかじめ決められた教育課程の中には存在せず、一人ひとりの学生のたどった跡に初めて姿を現します。英語で、履歴書のことを“curriculum vitae”といいますが、大学のカリキュラムもまさに「学びの履歴」としての意味をもつのです。
 

3.6 カリキュラムの評価と改善

  • 大学のカリキュラムが学生を介して初めてカリキュラムとして完成するのだとすれば、学生が実際に経験したカリキュラムがどんなもので、そこからどんな学習成果を得たかを把握し、そこからカリキュラム改善の仕方を考えるという回路が必要になります。これは、カリキュラムの評価と改善の問題です。
  • 近年では、個々の授業科目での成績評価や学生による授業評価だけでなく、カリキュラム評価に活用できる多様なアセスメントが行われています(→教育アセスメント)。

(文献)

Association of American Colleges & Universities. (2007). College learning for the new global century: A report from the National Leadership Council for Liberal Education & America’s Promise. Washington, DC: AAC&U.

中央教育審議会 (2008).「学士課程教育の構築に向けて(答申)」.

中央教育審議会 (2012).「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて-生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ-(答申)」.

González, J., & Wagenaar, R. (Eds.). (2008). Tuning educational structures in Europe, Universities’ contribution to the Bologna Process: An introduction (2nd ed.). Bilbao: Publicaciones de la Universidad de Deusto. ゴンザレス, J.・ワーヘナール, W. (編) (2012).『欧州教育制度のチューニング―ボローニャ・プロセスへの大学の貢献―』(深堀聰子・竹中亨訳)明石書店.

松下佳代(編) (2010).『〈新しい能力〉は教育を変えるか―学力・リテラシー・コンピテンシー―』ミネルヴァ書房.

松下佳代 (2012).「大学カリキュラム」京都大学高等教育研究開発推進センター (編)『生成する大学教育学』(pp. 25-57), ナカニシヤ出版.

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