京都大学⾼等教育研究開発推進センター 京都大学⾼等教育研究開発推進センター

Interview 05

工学研究科

小森 雅晴 教授

PROFILE

1973年滋賀県生まれ。京都大学工学部卒業、大学院工学研究科修士課程修了。経営コンサルティング会社にて勤務の後、京都大学大学院工学研究科博士後期課程に入学。京都大学博士(工学)。京都大学大学院工学研究科にて助手、助教授、准教授を経て、2017年より現職。
機械工学における創造力育成グループワーク教育「機械設計演習2」について

今回対象とさせていただいた「機械設計演習2」の今のコンセプトは,いつから,どのような形で始められたのでしょうか?

この科目は歴史的にはずっとあります。ただ,それぞれの教員がやっていく中で,テーマが変わっていたりしています。私のひとつ上ぐらいの代から,“目的と仕様が一番重要という教育をしていこう”という風になりました。

それまでは,設計教育では“作れるか作れないか”がポイントになっていて,例えば,そんな部品を作ろうとしたら値段が高くなるとか,加工が難しいとか,そういう話がポイントになることが多くありました。それはそれで大事ですが,会社に入ったら嫌というほどやらされます。

そのため授業では,本来設計したいものは何なのかというところにフォーカスを当てようと思いました。設計できるものを設計するのではなくて,設計したいものがあって,それに向かってどう実際のものとして構造を作り上げるかというところにフォーカスを当てるという授業をしています。大体それが15年前くらいからです。テーマは徐々に変わっていってまして,最初は会社の人と一緒にやっていましたが,その後,大学の教員だけでやるようになりました。

「創造力育成」というキーワードが挙げられていますが,なぜそのような教育を行おうと考えられたのでしょうか?

機械工学の学生が卒業後にどのような仕事をするかと言うと,新しい機械を生み出すとか,機械の新しい技術を生み出すといった仕事が多いです。それに対して,いわゆる普通の専門科目の授業というのは,生み出すことを教えているというより,何か対象が決まったときに分析する方法を教えています。会社に入ったり,研究者になったりしてから必要になるのは,生み出す方の能力です。そのため,創造力育成に取り組む授業というのは重要かなと思っています。

そのような認識は機械工学の中では一般的ですか?

機械工学の中では,ある程度は認識されていると思います。ただし,設計には,ざっくり言うと2つのレベルがあります。1つは製図という設計図を描くという意味で,もう1つは上位の本当の意味での設計という2つです。設計図を描くというのは基本的なスキルなので必ず求められますが,設計図は何かを生み出すための図ではなくて,他人に伝えるための図なので,製図の勉強は言葉の勉強みたいなところがあります。一方,その上にあるのが,創造力が必要となる設計です。設計図を描く前の,本当に作ろうとしているものは何かということを考える設計で,その教育は,どこの大学でもやっているかというとそうでもないと思います。機械工学でもやっているところとやっていないところがあると思います。

上位のレベルでの創造力が必要だと思われるのは,実際に学生が社会に出ていったときに直面する課題や仕事で求められるから,ということが一番大きいですか?

そうですね。設計は,解がないというか,考えたことが合っているのか合っていないのか分からないというところから始まります。それまで学生は,必ず解があって,そこにいかに効率よくたどり着くかというトレーニングをしてきています。それに対して,どんな解があるか教員にもよく分からないような課題に取り組まなければならないのが創造力育成教育です。設計は,“解に辿り着く道も何もわからないけど,解がどこかにあると信じて進みましょう”というものなので,そのトレーニングは必要だと思ってやっています。

「創造力育成」において「グループワーク」を重視しています。一人で教科書と向き合ってきた学生にとっては,答えがない中で,他人と一緒に作業するのは二重のハードルと思うのですが,両者をつなげられたことには,どのようなお考えがあるのでしょうか?

創造力育成のときに,グループでやるというのはすごく意味があることです。学生たちは今まであまりやっていないので,単純なグループワークだけでもトレーニングになる面はあります。また,設計という意味で言うと,1人で考えていたのでは色々な抜けがあります。学生は色々検討しているのですが,やはり抜けているところがあり,それを他の人が見てくれると発見しやすいというのがあります。それ以外にも,自分が考えていることを人に伝えるということに慣れていない人には,勉強になります。自分の頭の中では“こんなもの”というのが描けているわけですが,それをいかにして他の人に分かるように伝えるかというところが重要なトレーニングになります。また,人に伝えようとして整理していたら,実は間違いだったと分かることもあります。人に伝えようと思って整理すると,すごく洗練されます。そういった意味でも創造力育成とグループワークというのは相性が良いと思います。

テーマ設定に関して,先生はどこまで指示をするのですか。

例えば“二足歩行するロボットを作れ”だけです。ただ“モーターは1個で”とか,“歩き方は片足ずつきちんと足を動かすこと”などの技術的な指示はあります。それ以外は,学生がチームごとに考えます。そのロボットはどのくらいの速さで歩けばいいかということについては,癒やされたいのだったらゆっくり歩いてくれたほうがいいし,子供向けのものを作りたいチームであれば,チョコチョコと速いほうがいいかもしれません。そうすると,目指す速度が変わってきます。そのため,チームごとに目的が違います。歩くロボットというところだけが共通ですが,それ以外はチームごとに目指す形が違うのです。

目的から出発すると授業内に収めるという調整が難しいと思うのですが,何か工夫をされているのですか。

まずテーマ設定をするときに,教員が自分でチャレンジしてみます。それである程度このくらいの時間で行けるかなというのは確認しますが,それだけでは足りません。進捗管理は教員がある程度やらないと難しいです。というのも,学生にとってみると今どこまで進んでいるのかがわかりません。経験があればできますけど,経験がないとどれくらいのペースでやったらいいのかもわかりません。また,設計は“答えにたどり着いた”がないので,いつまでも終わりません。だから,教員がある程度は進捗管理をする必要があります。

授業を実施する上で,創造力が育まれるように気をつけていること,工夫していることはありますか。

まずは色々な案を出さないといけないと言っています。良い設計にするためには色々な案を出してきて,その中から一番良い案を選ばないといけません。また,その案がなぜ良い案なのかという理由を説明してくださいとは言っています。それは,完璧な論理の説明ではないので,なんとなく納得できるかどうかになってしまいますけど,何も考えないよりは色々考えてこれが最適というのを選べば,より良い案にはなっているだろうと思います。

この授業が終わった段階で,学生たちからはどのような声が聞こえてきますか。

グループワークのことがよく言われます。それまで学生はあらすじの決まったグループワークしかやっていません。しかし,この授業では進むべき道もわからない中に4〜5人が放り込まれて,道を作るところから始めます。そういうグループワークをやって,新しいことを学んだということはあります。“同じくらい専門知識を持っている人同士で,議論ができて,それがすごく刺激的だということが分かった”というのもあります。専門知識を持っている者同士だと,こちらが詳しく言わなくても向こうがスッとわかってくれる。それってすごく気持ちがいい。そのような経験をしているのだと思います。

こういうやり方は良くないと教員が教え込んだり,学生も教員に聞こうとしたりしてしまうという構図になってしまうこともありますが,先生が学生と関わるときに注意している点はどういうところでしょうか。

演習の授業なので,とにかく体験して学ぶなんです。本を読んでも学べないところ,身につかないところを,体験すると身につくということです。良い学び方の1つは,こういう失敗をした,という体験をすることですね。そうすると,二度と同じ失敗はしないので。その失敗を体験するところ,少々痛い目にあいましたというところまでいってもらいます。そのために,教える側も言いそうになるところを我慢します。

担当教員の役割分担はどのようになっているのですか。

単純に日割りになっています。どの教員がどの部分の担当というわけではないです。そのため,教員それぞれが学生に言うことは違いますが,それはそれで良かろうと私は思っています。会社でもそうですけど,先生がみんな違うことを言うので。その中で,うまく自分なりに参考になるところは活かして,参考にならないと思ったところにはそれなりの判断を下して,学生が自分で道を決めないといけないと思っています。

今後,検討・実施していきたいことなどはありますでしょうか?

今は理想に近いかなと思っています。もうちょっとチーム間の刺激があるとうれしいというのはありますが。チーム内では議論をしているので,その中ではお互い高い知識レベルで議論していると思うのですが,他のチームへの刺激というのが,まだ理想とするところまでいっていないと思います。本当は,“あのチームがこう考えているんだったら自分たちはこういう考え方にしたらいいんじゃないか”とか,そんなことを考えてもらえるといいと思っています。

先生のほうから,学生たちに伝えておきたいということはありますか。

物事を多面的に見るというのが創造力育成において大切です。何か新しいものを生み出そうというときに,他の人が見ている見方と同じ見方をしていると,新しいものを生み出すのはなかなか難しいです。物事の表面・裏面・側面等,色々なところを見れば,そこで何かヒントが出てくる可能性があると思うのです。そういうことをこの授業の中でも大事にしています。“多面的に見る”と“最適であるという理由をつける”はセットでして,多面的に見ることで自分の案が最適だと言える,という理由付けしかできないと思っています。一面だけを見てこれが最適だと説明をしても,他の面はどうなのと絶対に言われちゃうので。多面的に見て最適という理由をつけることができるアイデアは,良いアイデアになっていると考えています。そこは教えるときにも注意していることです。

(収録日2019年12月16日)


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