Topics【Trends】最新のICT活用教育動向

ハイフレックス授業の課題:アメリカの学部教育の現場から

【Trends】第18回 2021年2月17日

Trends(「ICT活用教育の動向」)では、現在のICT活用教育をめぐるさまざまな話題を紹介していきます。

2020年より続くコロナ禍のなか、世界各地の大学はオンライン授業を導入してきました。しかし、突然のオンライン化であったため、教員の多くは、オンライン授業の経験・リソースが十分でない中で対応に追われています。

グランドビュー大学(アイオワ州デモイン)の教育・学習推進センター所長兼教授(歴史学)、ケヴィン・ガノン(Kevin Gannon)氏は、The Chronicle of Higher Educationに寄稿した記事で、2020年春学期でのハイフレックス型授業*の実践経験を綴っています。

*ハイフレックス型授業とは、同じ内容の授業を対面とオンラインで同時に行う授業方法を指します。詳しくは、こちらをご覧ください。


ガノン氏は以下の5点を指摘、提案しています。

  1. ハイフレックス型授業は設計が難しい。実際に教えるのはもっと難しい。教員の負担が非常に重くなるため、これまでより手厚く教員に向けた支援を行う必要がある。

  2. ハイフレックス型は元来、テクノロジーに精通し、特定のプログラムを受講する大学院生に向けて開発されてきた授業形態であり、直ちに他のプログラムに応用できるわけではない。したがって、これまでは決まった時間割の上で対面授業を受けてきた学部生、特に新入生に対して、ハイフレックス型授業は負担が大きい。学生に向けて、ハイフレックス型授業の仕組みや、最も効果的に受講する方法をより明確に、具体的に示してあげることが必要である。

  3. 授業の性質によって、ハイフレックス型が適する授業と、あまり適さない授業がある。ディスカッションの割合が多い授業では、ハイフレックス型は難しい。一方、解説がメインとなる授業や、プレゼンテーションが中心で間にディスカッションやQ&Aを少し挟むという形態の授業では、ハイフレックス型は相性が良い。ハイフレックス型はどの授業にも応用可能であるが、授業の内容・性質を踏まえた上で、必要に応じて授業計画に取り入れられるべきである。

  4. 学生がオンラインでうまく学習ができるようにするための支援が必要である。学生は、学習という本質的に難しい活動を進めるだけでなく、オンライン授業というこれまでとは異なる形態の授業に適応を迫られており、そのための支援を必要としている。特に、オンライン授業を受けるためのリソースや文化資本に恵まれない学生には、手厚い支援が不可欠である。つまり、学生がオンラインで上手に勉強できるようにするための、学生目線での支援が求められている。

  5. インターネットへのアクセスや学習スペースといった、ハイフレックス型授業のための学習環境には、社会経済的な格差が非常に大きく影響している。したがって、どの学生も確実に授業に参加できるような仕組みづくりが必要である。

結びに、ガノン氏はハイフレックス型授業によるポジティブな変化についても言及しています。中でも、ハイフレックス型授業の試行錯誤を通して大学教員が思いやりや柔軟性と共感の能力を高める方法を日々学んでいるということが、今後の大学教育にとって大きな意味を持つだろうと述べています。

その他、詳細については、記事原文("Our HyFlex Experiment: What's Worked and What Hasn't", October 26, 2020. *全文の閲覧には会員登録が必要です)をご参照ください。

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