Topics【Trends】最新のICT活用教育動向

ハーバード発の新しい自然科学研究・学習プラットフォーム"LabXchange"

【Trends】20回 2021年5月17日配信

Trends(「ICT活用教育の動向」)では、現在のICT活用教育をめぐるさまざまな話題を紹介していきます。

LabXchangeは、2020年1月22日に米国のアムジェン財団の後援のもと、ハーバード大学によって公開された、科学教育のためのオンライン・プラットフォームです。世界中に質の高い自然科学の教材を提供するにとどまらず、バーチャルな実験の機会、世界の科学コミュニティとつながる機会を提供することを目的としています。

オープン・ソースによるオンライン学習ネットワークの提供を通じて、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の第4目標「質の高い教育をみんなに」に貢献するだけでなく、生物学・生物工学に関するコンテンツ提供を通じて、SDGsの第3目標「すべての人に健康と福祉を」にも貢献することが志向されています。

ユーザー登録は無料で(edXアカウントで利用することができます)、7000件を超える教材から、自由にコンテンツを選び、学習することができます。

以下では、コンテンツ・コース設計・コミュニティ機能の3点からLabXchangeを紹介します。

第一に、コンテンツです。生物科学を中心に、化学、健康科学、物理学など、様々な自然科学のコンテンツが提供されています。自然科学の学習には実験が不可欠ですが、LabXchangeはバーチャル実験をコンテンツとして用意しており、誰もが場所や時間を問わずに無料で実験に取り組むことができるようになっています。

第二に、コース設計です。LabXchangeは、講義や演習の順番や内容があらかじめ決まったコースを提供するのではなく、ユーザーが自由に教材・実験のコンテンツを選択し、自由な順番・組み合わせによる「Pathway(経路)」を作成できるようになっています。LabXchangeを主宰したハーバード大学のロバート・ルー(Robert Lue)教授(当時)へのインタビューによると、ここには、ユーザーが持つ、異なったニーズ、関心、目標を尊重したいという開発者の思いが反映されているそうです。

最後に、コミュニティ機能です。ユーザーは自分のプロフィールを設定することができるほか、LabXchangeのコンテンツを組み合わせて独自に作成したPathway(経路)や、それぞれの実験の履歴、さらには手元の研究結果を他のユーザーと共有することができます。これによって、多様な学習経路の選択肢、様々な実際のデータに触れることができるほか、他のユーザーと議論を行い、関心を共有することができます。LabXchangeでは、ユーザーは単に受動的に講義を受ける存在ではなく、主体的に新たな知のリソースを生み出す存在として位置付けられています。このようにしてユーザー間を繋ぎ、グローバルな研究コラボレーションを促進することにより、LabXchangeは実社会の問題に対して、創造的な解決法を構築することが目指されています。

2020年12月現在、世界から70の大学、研究・教育機関がLabXchangeにコンテンツを提供しており、利用者は300万人以上にのぼっています。日本からは、京都大学がedXを通じて「KyotoUx」という名義で配信する、工学研究科の山本量一教授によるMOOC「Stochastic Processes: Data Analysis and Computer Simulation」より、21本の講義ビデオが登録されています。

その他、LabXchangeの詳細については、LabXchangeホームページ、および紹介ビデオ(英語)をご覧ください。

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