News【Trends】2020年秋学期の授業を振り返って:コロナ禍下での米国教員調査報告書より

2021.04.12

Trends(「ICT活用教育の動向」)では、現在のICT活用教育をめぐるさまざまな話題を紹介していきます。

コロナ禍が発生してから約1年。講義のオンライン化など、コロナ禍への対応として行われてきた新しい取り組みに対して、現場からの評価、課題の指摘が集まってきています。

米国の高等教育支援ネットワークであるEvery Learner Everywhereと教育コンサルティング企業のTyton Partnersは、入門レベルの講義を担当する米国の大学教員を対象として調査を行い、報告書を1月26日に公開しました。調査は2020年11月中旬に実施され、2020年秋学期での実際の教育活動に関して、600以上の2年制・4年制の高等教育機関から、852名の教員が回答しました。この調査はコロナ禍発生直後の5月、秋学期開始前の8月の調査に続いて実施されたものであり、今回の報告書では、先行する調査からの変化を踏まえながら分析が行われています。ここでは、報告書の一部を紹介します。

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図1:2020年秋学期の授業形態の事前見通しと実際の実施状況、および次学期の見通し(出所:報告書 p.28)

まず、授業形態です。

秋学期の授業が実際に進む中で行われた今回の調査では、8月当時の見通しと比べ、フルオンライン型の授業を実施するケースが多いということが明らかになりました(図1)。さらに、この秋学期に80%前後(2年制機関所属教員では88%、4年制機関所属教員では78%)の教員がフルオンライン型あるいはハイブリッド型の授業を行っており、オンライン授業が定着している様子が伺われます。

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図2:「オンライン授業は有効な教育方法であると思うかどうか」という質問に対する回答(出所:報告書 p.16)

それでは、この秋学期にオンライン授業を実際に行った教員からは、どのような評価や課題が挙げられているでしょうか。

まず、オンライン授業に対する教員の考えに目を向けると、秋学期の準備段階にあった8月と同様、およそ半数の教員がオンライン授業を効果的な教育方法として考えています(図2)。

コロナ禍以前と比べ、秋学期の準備段階(8月)においてオンライン授業に対して肯定的な意見が増加していましたが、秋学期のオンライン授業経験を経た後も、ほぼ同様の回答が得られており、オンライン授業の有効性について一定の評価が定着している様子が見てとられます。

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図3:「2020年度秋学期に質の高い講義を学生に提供する準備ができているかどうか」という質問に対し、肯定的な回答があった割合(授業形態ごと)(出所:報告書 p.26)

その一方で、様々な課題が指摘されています。

まず、(フル)オンライン・ハイブリッド・ハイフレックス・対面の4つに分けた授業形態別の分析から、ハイブリッド型やハイフレックス型授業に課題を感じる教員が多いということが明らかにされています。

例えば、対面型やフルオンライン型と比べ、ハイブリッド型やハイフレックス型授業を実施している教員からは、講義に十分準備ができているという回答が少なかった一方(図3)、学生の学習成果への懸念を示す回答が多かったとのことです。これを受けて、報告書では、ハイブリッド型やハイフレックス型授業の設計、実施に対するさらなる支援、およびこれらの授業形態の影響や効果に関する追加の調査の必要性が指摘されています。

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図4:「(入門レベルの)講義において最も大変だったことを3つまで挙げてください」という質問に対する回答 (出所:報告書 p.7)

さらに、学生のエンゲージメント(授業への深い関与)の確保も重大な課題として挙げられています。

春学期と比べ、秋学期には学生のエンゲージメントの度合いが高まったと回答する教員の割合が増加しているという調査結果が出ている一方で、学生のエンゲージメントの確保がオンライン授業の最重要課題として挙げられており、実際、コロナ禍発生直後の5月の調査、秋学期開始前の8月の調査、そしてこの11月の調査を通して、7割前後と、継続的に高い数値を示しています(図4)。

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図5:「2020年秋学期における授業経験を1語で表してください」という質問に対する回答(出所:報告書 p.17)

最後に、オンライン授業が教員に与えた影響について、一つの興味深い結果を紹介します。「1語で2020年秋学期の授業経験を表してください」という問いに対し、疲弊(exhausting)、困難の多い(challenging)、ストレスフル、イライラ(frustrating)、といったネガティブな回答が上位を占めています(図5)。

教員はオンライン授業の有効性を認めつつも、同時に、重い負担を感じている様子が見てとられます。この背景には、授業そのものに加え、準備、フォローアップのために多くの時間を必要とするという状況があるようです。

その他、本報告書には、オンライン授業体制下での学生に対する懸念事項、高等教育機関から教員に対する授業支援の状況、高等教育機関におけるオンライン学習設備の整備状況など、様々な観点からの結果が報告されています。

詳細については、報告書(Fox, K., Bryant, G., Lin, N., Khedkar, N., Nguyen, A., (2021, January 28). Time for Class - COVID-19 Edition Part 3: The Impact of 2020 on Postsecondary Teaching and Learning of Introductory Faculty. Tyton Partners.)、およびInside Higher Edでの紹介記事をご覧ください。

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