News【Trends: MicroMasters Vol.3】初めての修了者が誕生:MIT Supply Chain Management

2018.07.12

Trends(「ICT活用教育の動向」)では、現在のICT活用教育をめぐるさまざまな話題を紹介していきます。

MicroMastersは、MOOC配信プラットフォームであるedXが展開する、複数のMOOCを束ねた教育プログラムです。「シリーズ〜MicroMasters〜」では、3回にわたり、MOOCを通じた新たな取り組みとして注目されるMicroMastersをご紹介します。

  • Vol.3:「初めての修了者が誕生:MIT Supply Chain Management」(本記事)

本記事では、そのなかでも、MicroMastersのパイロットプログラムであり、成長分野であるサプライチェーンマネジメントを扱ったSupply Chain Managementプログラム(以下、SCMプログラム)をご紹介します。

同プログラムは、OCWを創始し、またハーバード大学とedXを共同で創設するなどこれまで世界のオープンエデュケーションの取り組みを牽引してきたMITが2016年に開講したものです。昨年、初めての修了者が誕生し、その中から正規の修士課程プログラムへの入学者が生まれたことで注目を集めました。

SCMプログラムとは

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サプライチェーンマネジメントとは、原材料の調達から販売に至る供給連鎖(サプライチェーン)の過程全体を見直し、その最適化を図る経営管理手法のことで、その専門知識を得るためのプログラムがSCMプログラムです。

同プログラムは、「Supply Chain Analytics (SC0x)」、「Supply Chain Fundamentals (SC1x)」、「Supply Chain Design (SC2x)」、「Supply Chain Dynamics (SC3x)」、「Supply Chain Technology and Systems (SC4x)」の5コースで構成されています。

SCMプログラムで提供されるコース一覧(2018年6月11日現在)
コース名 期間 各週の所要時間 分野 レベル
Supply Chain Analytics (SC0x) 13週 8-12時間 経営管理 Introductory
Supply Chain Fundamentals (SC1x) 13週 8-12時間 経営管理 Introductory
Supply Chain Design (SC2x) 13週 8-12時間 経営管理 Advanced
Supply Chain Dynamics (SC3x) 13週 8-12時間 経営管理 Advanced
Supply Chain Technology and Systems (SC4x) 13週 8-12時間 経営管理 Advanced

プログラム内のコースをすべて受講・修了した後、プログラム全体の最終試験 (Supply Chain Comprehensive Exam) を受験し、合格することにより、プログラムの修了の証明としてMicroMasters Credentialが発行されます。

SCMプログラムのMicroMasters Credentialは、次に紹介するMITの修士課程プログラム(SCMb)を始め、現在、複数大学の修士課程プログラムにおいて、単位認定の要件として認められています。

SCMプログラムによる単位認定制度

Supply Chain ManagementのMicroMasters Credentialが組み込まれた、正規の修士課程プログラムの事例として最も有名なのが、MITのSCMbの事例です。

Supply Chain Management Blended Program (SCMb) は、オンラインでのMicroMastersの受講とMITでの正規課程教育で構成されるブレンディッドな修士課程プログラムです。出願要件としてMicroMasters Credentialの取得が必要になっており、SCMbを修了するのに必要な単位の約半数がMicroMasters Credentialによって代替されます。通常の修士課程プログラムであるSupply Chain Management Residential Program (SCMr)との相違点としては、修了単位の半数がMOOCによって代替されるため大学に通う期間が短縮されること、そして、生活費を含むプログラム全体でかかる費用が比較的廉価で抑えられる*ことが挙げられます。

* MITの2種類のサプライチェーンマネジメントの修士課程プログラムでは、通常の対面授業によるSCMrの学費等の関連費用の総額が10万ドルを超えると試算される一方、オンラインでのMicroMastersの受講と対面授業で構成されるSCMbでは6万ドル弱とされています
なお、SCMrでもSCMプログラムが一部活かされており、SCMプログラム内の指定されたコースを受講し修了することで、出願要件の一部に代替させられるようになっています。

MIT以外の大学でも利用が広がる

MITが開発したSCMプログラムですが、MIT以外の高等教育機関でもそのMicroMasters Credentialを利用することができます。

例えば、ロチェスター工科大学(アメリカ)やパデュー大学(アメリカ)、ガリレオ大学(グアテマラ)、クイーンズランド大学(オーストラリア)、カーティン大学(オーストラリア)などの世界各国の大学の、10以上の修士課程プログラムで利用されています。なかでもカーティン大学では、SCM修士と商学修士という2つの修士課程プログラムにSCMプログラムが組み込まれており、MIT以外の大学において、同プログラムの利用が広がっていることがわかります(SCMプログラムが利用されている高等教育機関の一覧はこちらをご覧ください)。

初の修了者が誕生

SCMプログラムは2016年に開講され、2017年6月に初の修了者が誕生しました。
79カ国1100名を数える受講者が個々のコースをすべて修了し、そのうち、上述の最終試験に合格した622名が、SCMプログラムの修了者として MicroMasters Credential を得ました(詳しくはMIT Newsの記事edX blogの記事をご覧ください)
SCMプログラムのMicroMasters Credentialを得た622名のうちの40名*がその後、MicroMasters Credential を利用して、先述のSCMbの入学資格を取得したとされています(詳しくはMIT Newsの記事をご覧ください)

* そのうちの一人であるコンサルタントの女性の記事がこちらに掲載されています。

edX Blog上では、SCMプログラムを修了した受講者の声が複数紹介されており、いずれの受講者も、SCMプログラムを利用して体系的な学習をおこなったことが実際の業務や求職時に役立ったと振り返っています。

MicroMastersプログラムの展開と高等教育の変容

本シリーズでは、edXが仕掛ける新たな試みとして注目されるMicroMastersプログラムを3回にわたって取り上げてきました。

今や世界各国の高等教育機関から50近くのプログラムが提供されているMicroMastersですが、一定の条件を満たすことでその受講者は、出願要件の一部を代替させたり、既存の単位を取得したり、あるいは通常の修士課程に比べて廉価で学位を取得したりすることができます。オンラインでプロフェッショナルのための学び直しやスキルアップの機会をもたらすだけでなく、既存の高等教育機関の制度にも組み込まれたMicroMastersは、学習者の学び方や選択肢を広げるのみならず、高等教育機関のあり方そのものをも変化させるものといえるでしょう。

今回紹介したSCMプログラムを始めとして、今後、MicroMastersプログラムが全体としてどのように展開し、具体的にどのようなプログラムが公開されるのか、そしてMicroMastersプログラムによって高等教育がどのように変容していくのか、目が離せません。


(記事構成:河野亘・鈴木健雄)