Topics開催報告

国際シンポジウム
「ブレンディッドな次世代高等教育を展望する ―アジアのトップ大学のICT活用教育最前線―」

公開日:2019年6月6日 

2018年3月2日、京都大学芝蘭会館稲盛ホールにて、アジアのトップ大学で先端的取り組みを主導しているリーダー・アドミニストレーターを基調講演者・特別講演者とする国際シンポジウム・第93回公開研究会「ブレンディッドな次世代高等教育を展望する―アジアのトップ大学のICT活用教育最前線―」(主催:京都大学高等教育研究開発推進センター)が開催されました。

シンポジウムの概要

近年、産業構造や労働市場の急激な変化に伴って、「社会人の学び直し」や「リカレント教育」の推進、ICTを利用した新しい教育方法の戦略的な活用が、大学関係者や産学官のステークホルダーにとって喫緊かつ重要な課題となっています。そのなかにあって、MOOC*・SPOC*・OCW*やその他のオンライン教材・学習環境を利用した反転学習やブレンディッド教育の取組が国内外で進んでいます。また、MOOCやオンライン教育を利用した新たな単位・学位・専門資格の取得システム・制度づくりの動きが活発になっています。
このような状況を受けて、本シンポジウムでは、ICTや新たな教育方法・環境を利用することで多様な学生の多様な学びをいかに効果的・効率的に支援できるかが検討されました。ブレンディッドな次世代高等教育の可能性をテーマに、アジアのトップ大学での先端的な取り組みが紹介され、活発な議論が交わされました。

* 京都大学のMOOCの詳細についてはこちら
* SPOC:大学が主に自学の学生向けに提供するオンライン講義・教材・学習環境の総称。京都大学のSPOCであるKoALAの詳細についてはこちら
* 京都大学のOCWの詳細についてはこちら

当日のプログラム

2018年3月2日(水)於 京都大学芝蘭会館稲盛ホール

13:30~  開会挨拶
喜多 一(京都大学情報環境機構長・国際高等教育院教授)

13:35~  講演「京都大学におけるMOOC・SPOCの現状と展望」
酒井 博之(京都大学高等教育研究開発推進センター准教授)

13:50~  講演「京都大学におけるICT活用教育促進の取り組み:教育実践の見える化と共有を通じて」
田口 真奈(京都大学高等教育研究開発推進センター准教授)

14:05~  特別講演「ICTによって強化された2025年の高等教育を展望する」
飯吉 透(京都大学教育担当理事補・高等教育研究開発推進センター長・教授)

14:25~  特別講演(ビデオ出演)「MOOCとブレンディッド・ティーチングの促進:大学と教員としての経験から」
Xiaoming Li (Head of MOOC initiatives and Professor, Peking University, Director, Institute of Network Computing and Information Systems)

14:40〜  休憩

14:55〜  

基調講演「香港大学におけるテクノロジー活用学習」
Ricky Yu-Kwong Kwok (Associate Vice-President (Teaching and Learning) and Professor, University of Hong Kong)

基調講演「ソウル大学におけるブレンディッド・ラーニング」
Cheolil Lim (Professor, Department of Education, Seoul National University, President, Korean Society for Educational Technology)

基調講演「MOOCsを越えて:挑戦と好機」
Ting Chuen Pong (Senior Advisor to the EVPP (Teaching Innovation & E-learning), Director and Professor, Center for Engineering Education, Hong Kong University of Science and Technology)

16:10〜  休憩

16:25〜  パネルディスカッション
モデレーター:松下 佳代(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)
指定討論者:喜多 一
パネリスト:Xiaoming Li, Ricky Yu-Kwong Kwok, Cheolil Lim, Ting Chuen Pong, 飯吉 透

17:45  閉会

※ Kwok教授の基調講演は諸事情により中止となりました。

シンポジウムの詳細

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酒井博之准教授(映像はこちら

酒井准教授は、京都大学における取り組みの現状と、今後の展望について報告されました。OCW、MOOC、LMS*、MOST*(オンラインFD支援システム)といった個々の取り組みを紹介し、その上で効果的に教育改善を展開するため、各取組が有機的に結びつけられているとしました。 MOOCに関する報告では、提供中のコースの紹介とコース公開後の波及効果の説明があり、波及効果の実例として、MOOCを通じた海外学生の本学への招待や反転授業等の教育実践への応用などを挙げました。また、SPOCに関する報告では、京都大学のSPOCであるKoALAの概要と提供状況について紹介しました。さらに、今後の展望・課題として、質の高いコースの開発に加え、学内の他の教育支援ツールやシステムとの連携等を挙げました。

* 京都大学のLMSであるPandAについてはこちら

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田口真奈准教授(映像はこちら

田口准教授の講演では、京都大学でのICTを活用した授業改善の取り組みの紹介がありました。田口准教授は、高等教育研究開発推進センターでは、教育実践を可視化し、さらに共有することを目的として、これまでに公開授業およびその検討会の実施、オンラインFD支援システムMOSTの提供やCONNECT(本サイト)の構築といったさまざまな取り組みを試行錯誤を重ねながら継続的に実施してきたとしました。その上で、近年の京都大学におけるICTを活用した教育実践として、反転授業や大講義での双方向型授業を具体的に紹介しました。

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飯吉透教授(映像はこちら

飯吉教授の講演では、2025年の高等教育の見通しが語られました。飯吉教授は2020年代の高等教育は "Personalization"(個別化)、"Preference"(個人的好み)、"Prediction"(ビッグデータ・データアナリティクスに基づいた多様な予測・予知)、"Proactive"(先見的に行動する)といったキーワードに代表される「Pの時代」になるという予測に言及し、その一例として、アリゾナ州立大学におけるMOOCを利用した初年次教育であるGlobal Freshman Academyや「マイクロ・クレデンシャル」(既存の学位とは異なり、特定の知識・技能の習得をより細分化された新たな認証単位で認定する取り組み)*の事例を挙げました。その上で、2025年の高等教育は学習者の需要を反映した科目・コースのモジュール化や廉価化、空間的・時間的制約の減少、利用可能な履修証明の多様化、豊富なデータに基づく個別化が進むだろうと述べました。

* マイクロ・クレデンシャルの具体例として、MOOCが利用されているマイクロ・クレデンシャルであるMicroMastersの詳細についてはこちらをご覧ください。

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Li教授(映像はこちら

Li教授による講演では、まず、北京大学のMOOCタスクフォースの長として100を超えるコースを展開するとともに、ご自身でもMOOCを提供してきたとした上で、同学におけるブレンディッド教育の推進の試みや、他大学の教員も利用可能なプラットフォームの構築・提供といった取り組みについて紹介しました。Li教授は、ブレンディッド教育がより広く普及していくためにはより多くのMOOCが提供される必要があると述べました。そのためにも、社会でのMOOCの認知度の向上、教育のオープン化の推進が必要であると述べました。

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Lim教授(映像はこちら

Lim教授からは、ソウル大学におけるICT活用教育やブレンディッド学習の取り組みの紹介がありました。具体的には、MOOCやLMS (eTL) の開発・推進、反転授業の実施・支援・評価、学内向けオンライン学習環境(SNUON: SNU Open educatioN)の開発などについてです。Lim教授は今後のソウル大学のブレンディッド学習の重点目標として、(1) ラーニングアナリティクスに基づく個々の学生に合わせたブレンディッド教育カリキュラムの開発、(2)学生の参加の促進、(3) 教員向けの研修の実施や教員コミュニティの構築による教員の教育能力育成、(4) 他の高等教育機関の教材・MOOCを活用した反転授業の拡大、(5) IRと学生・教員向けのコンサルティングによる技術的・組織的支援を挙げました。

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Pong教授(映像はこちら

Pong教授は、まず、世界の高等教育で近年生じた変化を概観したうえで、香港科技大学におけるMOOCおよびブレンディッド学習の取り組みの紹介がありました。そこで取り上げられた事例には、(1) MOOC「Introduction to Computing with Java」でのラーニングアナリティクスや掲示板の活用、(2) MOOCを活用した反転授業、(3) 体験型学習の「Blended Experiential Leaning」、(4) MOOCを利用した大学間の連携による留学プログラム「Virtual Exchange」などがありました。

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パネリスト(パネルディスカッションの映像:指定討論論点整理パネルディスカッション

基調講演・特別講演の内容を受けて、パネルディスカッションでは、国内外の高等教育の動向、そして各大学の取り組みに関して相互に議論が交わされました。また、フロアの質問を受けて、「大学の予算の削減が進む中、ICT活用教育の持続可能性をどのように考えるべきか」、「教員の研修(プロフェッショナル・ディベロップメント)をいかにすべきか」、「ブレンディッド教育での評価方法をいかにすべきか」といった点についても、議論がなされました。

シンポジウム終了後、参加者からは、「MOOCによる教育と大学における教育の関係・違いという側面からの話題が大変興味深かったように思います。時代の流れと現実のカリキュラム作りという視点も考えさせられた点でした。」「MOOCの教育を作る側および運営する側からの展望や課題に関して考えることができ、10年後の社会の様子を展望することができた点が参考になった。」といった意見が寄せられました。

(公開日:2019年6月6日)