Topics開催報告

国際シンポジウム
「学習のための、学習としての評価
-PBLとMOOCにおける学習評価の可能性-」

公開日:2017年8月9日 

2014年10月8日、京都大学芝蘭会館山内ホールにて、ハーバード大学のエリック・マズール (Eric Mazur) 教授を基調講演者とする国際シンポジウム・第89回公開研究会「学習のための、学習としての評価-PBLとMOOCにおける学習評価の可能性-」(主催:京都大学高等教育研究開発推進センター)が開催されました。

シンポジウムの概要

本シンポジウムでは、マズール教授からハーバード大学でのプロジェクト型学習の評価を中心とした報告が行われたほか、それを受けて、学生の学びを促すための評価の方法について活発な議論が交わされました。
 マズール教授は、2012年、2013年と京都大学に来学し、大人数講義におけるクリッカーを使ったピア・インストラクションや、リアルタイム学習評価システム Learning Catalytics を使った授業と学習評価の方法について講演されており、本シンポジウムのために再度来学されました。

シンポジウムの要旨

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エリック・マズール教授

プログラムの冒頭、マズール教授は「学習の評価から、学習のための評価へ」と題した講演をされました。ブルームのタクソノミー* を紹介しつつ、同教授が強調されたのが、学生が身につけるべき思考能力は、伝統的な教授法において評価の対象とされていた暗記のような「低次の」思考能力のみならず、創造的でイノベーティブな「高次の」思考能力をも含んでおり、その力を測るためのアセスメントが、今日、大学としても求められているということでした。その際、学生のランク付けではなく、アセスメントの結果を踏まえた学生へのフィードバックが焦点化されるべきであるとも指摘されました。

* ブルームのタクソノミー (Bloom's Taxnonomy of Educational Objectives):アメリカの教育心理学者ベンジャミン・ブルーム (Benjamin Bloom) らが開発した教育目標の分類 (Bloom, 1956) 。ブルームにより1956年にオリジナル版が開発され、2001年にL. W. アンダーソンとD. R. クラスウォールにより改訂された (Anderson and Krathwohl, 2001)。改訂版の分類によると、評価対象である思考能力は (1) 記憶 (remembering)、(2) 理解 (understanding)、(3) 応用 (applying)、(4) 分析 (analyzing) (5) 評価 (evaluating)、(6) 創造 (creating) と分類され、それらは数字が増えるにつれてより高次のものとして扱われる。
 なお、本講演でマズール教授が言及した「ブルームのタクソノミー」はアンダーソンらによる改訂版の分類に対応している。

Anderson, L., and Krathwohl, D. A. (2001). Taxonomy for Learning, Teaching and Assessing: A Revision of Bloom's Taxonomy of Educational Objectives. New York: Longman.
Bloom, B.S. and Krathwohl, D. R. (1956). Taxonomy of Educational Objectives: The Classification of Educational Goals. Handbook I: Cognitive Domain. New York: Longman.


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飯吉透教授

次に、「MOOCの進化と学習評価」と題された講演の中で、京都大学高等教育研究開発推進センター(以下、「同センター」)の飯吉透教授は、京都大学における初のMOOC "Chemistry of Life" について触れ、そこで実践されたアセスメントがまさに学生の創造性を育てることを目的として設計されたものであると述べました。また、オランダのデルフト工科大学で提供された太陽エネルギーを扱ったMOOC (DelftX「ET3034x Solar Energy」) の事例を挙げ、MOOCの伸長は、学生の大規模なインタラクションを引き起こし、創造性を育む可能性を秘めていることを指摘しました。

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松下佳代教授

「学習としての評価-PBL(問題基盤型学習)におけるパフォーマンス評価-」と題された、同センターの松下佳代教授による報告では、はじめに学習評価の構図が紹介されたのち、PBL (problem-based learning) において期待される学習成果を測るための方法として、新潟大学歯学部において開発・実践されてきた改良版トリプルジャンプという方法論が紹介されました。その上で、PBL でのパフォーマンス評価は、従来行われてきた「学習の評価」ではなく、「学習としての評価」として機能していると論じました。

講演・話題提供後のパネルディスカッションでは、同センターの溝上慎一教授の司会のもと、フロアの参加者も交えて活発な質疑応答が行われました。

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溝上慎一教授

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パネリスト

当日のプログラム

2014年10月8日(水)於 京都大学芝蘭会館山内ホール

14:00  開会挨拶
喜多 一(京都大学国際高等教育院 副教育院長)

14:05  講演
Eric Mazur (Professor, Harvard University)
「学習の評価から、学習のための評価へ」"Assessment for (not of) Learning"

15:45  報告
飯吉 透(京都大学高等教育研究開発推進センター長・教授)
「MOOCの進化と学習評価」
"Evolution of MOOC and Learning Assessment"
松下 佳代(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)
「学習としての評価-PBL(問題基盤型学習)におけるパフォーマンス評価-」
"Assessment as Leaning: Performance Assessment in Problem-Based Learning"

16:20  パネルディスカッション
司会:溝上 慎一(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)
パネリスト:Eric Mazur、飯吉 透、松下 佳代


(公開日:2017年8月9日)