Topics教員インタビュー

学生の多様な学習をサポートする図書館機構の取り組み

京都大学附属図書館 北村由美先生、坂本拓掛長

京都大学では、附属図書館を始めとして、学内全体で50箇所におよぶ部局図書館・図書室を持っています。京都大学図書館機構が実施しているたくさんの取り組みの中で、各部局の教職員の方々にもぜひ知ってもらいたい、教育を支える取り組みについて、図書館員の視点からお話を伺うべく、京都大学附属図書館の坂本掛長(利用支援掛)と、前回記事(「図書館での演習を通じて、学生が『一歩前』に踏み出せるように」)でもお話を伺った北村先生に取材しました。(以下、敬称略)

図書館利用から見る学生の学習スタイルの変化・多様化

坂本掛長は本学の図書館に12年勤められているということですが、学生の図書館の利用状況や学習の仕方について変化を感じられることはありますか。

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坂本:館内の利用の仕方は多種多様になっていると感じています。
たとえば、最近の学生は館内スペースの中でも、話ができる場所をすごく好む傾向があると思いますね。
附属図書館には、ラーニング・コモンズ*1のようにグループでコミュニケーションしながら学習できるスペースがある一方で、音を一切立てずにストイックに勉強するサイレントエリア*2というスペースもあります。特に印象的だったのは、試験期間中、他の場所はどこもいっぱいなのにむしろサイレントエリアだけは空席が目立っていたことですね。これは私たちにとっても意外でしたね。

また、飲み物を飲みながら勉強したい学生も多いみたいですね。館内への持ち込みは蓋が閉まる飲み物はOKで、倒れるとこぼれてしまうものはダメなのですが、時計台の下にあるタリーズのコーヒーを館内に持ち込もうとする学生が増えています。個人的には、スターバックスみたいな場所で勉強したい学生が多くなっているのかな、という気がしています。

面白いですね。学生の学習の仕方が多様化しているということなのでしょうか。

北村:そうですね。現在、図書館では色々な施設が利用できるようになっていて、ラーニング・コモンズやメディア・コモンズ*3、学習室24*4など、附属図書館内の空間もかなり多様になってきていますね。特に、2014年4月にオープンしたラーニング・コモンズは象徴的ですね。

*1 ラーニング・コモンズ:グループワークやディスカッション、プレゼンテーションの練習などが可能な施設。*2 サイレントエリア:静かに学習するためのスペース。使用すると音が出るPCや電卓などの使用が禁止となっている。*3 メディア・コモンズ:CD、DVD、ビデオなど多様な機器・メディアを利用し、音楽や映画の鑑賞、語学学習ができるスペース。*4 学習室24:ほぼ終日利用可能な学習スペース。

多様化する学習空間の構築:ラーニング・コモンズのコンセプト

附属図書館のラーニング・コモンズはどのようなスペースになっているのか、教えていただけますか。

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ラーニング・コモンズの様子(写真は図書館機構ご提供)

坂本:移動可能な机や椅子、ホワイトボード、プロジェクタ3台、電子黒板1台等が利用でき、学生や教職員がグループで一緒に話しながら学習をおこなうだけでなく、それらの設備を用いてプレゼンテーションの練習もできるようになっています。

もともとどういった経緯で作られたのでしょうか。

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北村:ラーニング・コモンズが作られたのは、2012年に館内スペースの見直しのワーキンググループができたことに端を発します。その際、ラーニング・コモンズがそもそも本学に必要なのかどうかも考えながら議論していきました。当時、附属図書館2階の文庫本の書架などで学生同士が教え合う姿を見たり、担当している授業の学生からも「違う学部の人たちが集まれるところがなくて困っている」と聞いたりして、そういった空間に対するニーズはあるんじゃないかということで提案することになりました。

当時学内で学術情報メディアセンター・コンテンツ作成室が公募していた共同研究に応募し、同室員の教職員の方々をはじめ、開かれた形で議論をしていきました。本学に初めてできるラーニング・コモンズなので、色んな立場の人に入ってもらって空間を作っていこうということで、図書館員だけでなく、他部局の教員や学生、デザイナーとも協働して検討していきました。

最初は図書館員と教員とですごく時間をかけて議論して、利用方法や設備についてストーリーを作って考えてみたり、利用状況のイメージを言語化する作業をしていきました。途中から、デザインスクールの先生や学生たちにも入っていただき、議論の中で出たアイディアをデザインに落としていろいろなモデルを作っていただいたので、そのモデルの中から具体的に検討する、という形で進めていきました。振り返ると、多くの人が関わって、とにかく時間をかけて議論したという実感がありますね。

学内の叡智が結集して作られているんですね。

北村:そうですね。

検討の際、国内のラーニング・コモンズと似たデザインにならないように、海外のラーニング・コモンズも参考にしました。私も最初、ヨーク大学のラーニング・コモンズにある段々畑の椅子(下の画像を参照)の導入を主張したりしていましたが、「これ、どうやって作るの」と言われてしまって。結局採用してもらえませんでした(笑)。

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議論の中で北村先生が推されていたという、カナダ・ヨーク大学図書館のラーニング・コモンズ内の「段々畑」型の空間

最終的に、デザインスクール受講生の建築学専攻の院生さんが出してくださったいくつかの案の中から、クスノキの根元に人が集まってきて、それが広がっていくというイメージを取り入れようということでまとまりました。それと同時並行的にコンセプトも「学びの実験場」に決まりました。そこで考えられたのは、まず空間を作っていって、ダメならダメで、それがなぜなのかを検証して、また違う空間に転用していけばいいんだから、永続的なものとして考えるよりは実験的なスペースとして考えていった方がいいと。作ってみないとわからないところもあったので、作った次の年にも、関係者や利用者が自由に参加できる形でラーニング・コモンズの使い方を検討したりしましたね。

「学びの実験場」の中で起こってほしいこととして、「知のチラ見」というのがあります。京都大学はすごく大きな大学ですが、自分の専門のことに集中する人も多いので、横の人と直接話さなくても、「あ、うちの大学ってこういうことをやっている人がいるんだ」ということが見られて、刺激を得られるような場になれば、と考えています。その関連で、ラーニング・コモンズでは「レクチャーシリーズ」*5というイベントも実施しています。レクチャーシリーズは、コモンズ内のちょっと広い場所を取って、学内の若手の先生方に、研究内容やその背景について1時間くらいレクチャーをしてもらうイベントです。コモンズ内でのイベントなので質疑応答がしやすく、参加者の方々からもご好評をいただいております。

また、ラーニング・コモンズができていく頃から私たちが共通して考えてきたのは、固定された空間ではなく「成長していく空間」ということです。京都大学ではスペースが限られていることもあり、ニーズに合わせて空間の使い方もどんどん変わっていったらいいと思っています。

ラーニング・コモンズの利用状況についてはいかがでしょうか。

坂本:おかげさまでいつもにぎわっていますね。座る場所を探すのが大変になるくらい利用していただいています。

北村:ニーズはあるので、今後も、学内に同様の空間が広がると良いですね。

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学内の学習支援のための施設・設備の一覧はこちら

日本語・英語だけじゃない!学習サポートデスク

現在ラーニング・コモンズ内に設置されている学習サポートデスクでも、学生の学習を支援する様々な活動がおこなわれているそうですね。

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取材時の学習サポートデスク。中央はスタッフの林政佑さん(法学研究科 博士後期課程)

坂本:はい。学習サポートデスクでは、レポートの書き方などの学習相談、館内の所蔵調査、データベースの利用方法、ラーニング・コモンズ内の設備に関する質問・相談などを広く受け付けたり、講習会やイベントなども実施しています。

スタッフはどのような方がなさっているのですか。

坂本:スタッフは文系から理系まで様々な分野の修士・博士課程院生の7名で構成されていて、全員が日本語と英語を話せるだけでなく、中国語、フランス語、ウルドゥー語が話せるスタッフもいます。

日本語・英語だけでなく、中国語やフランス語、ウルドゥー語まで話せる方がいるとはすごいですね。留学生も安心して相談できる体制になっているということですね。

坂本:はい。

留学生といえば、学習サポートデスクによる講習会の中に「留学生向け図書館ツアー」という企画もありますよね。

坂本:そうですね。留学生向け図書館ツアーは、2017年は10月中旬あたりに1日2回ずつ、合計10回実施しました。留学生の多くが10月に入ってくるので、この時期に実施しています。

留学生の数が多くなっていますので、そういったサポートがあると先生方も心強いですね。

坂本:そうですね。ぜひ先生方からも勧めていただければと思います。

その他に、今年、学習サポートデスクのスタッフによる「レポート執筆講座」を6月と10月に実施したんですが、これはかなり盛況でしたね。レポート執筆講座では、文系向けのレポートや論文の書き方や引用の仕方、実験レポートの書き方、LaTeXの使い方に関する講習をおこないました。特に学生が企画提案してくれたLaTeXの講座はとても好評でした。

引用の仕方については特に重要ですよね。

坂本:そうですね。引用については講習会の度に特に力を入れて言っています。

先生方はレポートの書き方の指導をしなければならないこともあるので、先生方からのニーズもあると思います。

坂本:ありがとうございます。

多様なニーズに対応した図書館イベント・講習会

学習サポートデスク主催以外にも、図書館では様々なイベントや講習会を催されていますよね。

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坂本:はい。学部や大学院の新入生向けの図書館利用案内をおこなったり、KULINEや文献管理ツールのRefWorks、学術データベースのWeb of Science、CiNii Articlesの利用に関する定期講習会なども実施しております。論文・レポート執筆のための調べ方講座(文献収集講座)なども開催しております。

昔に比べてデータベースがすごく洗練されてきているため、講習会に参加せずとも最低限の操作ならなんとなくできると考えている学生もいるかと思います。でも実際、定期講習会に来てくれた学生のアンケートを見ると、「こんな機能があったとは知りませんでした」「勉強になりました」というコメントをよくいただき、学生にとっても発見があるようです。関心のある方はぜひ参加していただきたいですね。

定期講習会以外に、授業の中でも講習会をおこなっているのですね。

坂本:そうですね。個人の先生方からご依頼を受けて授業内で講習会を実施するということもございます。

レポート執筆講座もそうですが、学生向けにこういった講習会が定期的に催されているというのは、先生方としてもとても助かると思います。

坂本:ありがとうございます。定期講習会は毎月のようにおこなっていますので、教員の方から学生にご周知いただけたらと思います。

お話を伺っていると、講習会やツアーの実施は、学生のためだけでなく、指導する教員にとっても価値があるんですね。

坂本:そうですね。こういった講習会等を通して、結果的に先生方の教育をサポートできればと思っています。

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京都大学図書館機構で開催される講習会日程の一覧イメージ(画像は2017年4月。画像をクリックで最新のイベントカレンダー(外部リンク)を閲覧できます)

前回の北村先生へのインタビュー時、若手職員の方々も「大学図書館の活用と情報探索」*6では教壇に立ってらっしゃると伺いましたが、どのような方が担当されているのでしょうか。

坂本:主に中心になって動いているのは、採用1年目から5年目までの図書館員がほとんどですね。図書館員のSD(スタッフ・ディベロップメント)の場にもなっていて、学生の前で話す機会が多いためプレゼンテーション能力が高まりますし、授業で配布する資料などをグループで作るので、資料作成のノウハウを吸収できるというのもありますね。

*6 「大学図書館の活用と情報探索」:北村先生が担当されている全学共通科目。詳細はこちらの記事をご覧ください。
【関連記事】「図書館での演習を通じて、学生が『一歩前』に踏み出せるように」(2018年3月12日公開)

図書館員としての役割や専門性など、講師をされる方々の意識の変化などはあるのでしょうか。

坂本:業務上、あまり学生と接する機会が多くない職員も、講習会の講師を経験することで、いわゆるサービス意識や今の学生の雰囲気を感じられるようになっているのが大きく、それが業務全体を底上げしてくれることを期待しています。

昨年4月に附属図書館のツアーに参加した際、非常に上手く説明されていたと感じました。

坂本:参加していただいていたのですね、ありがとうございます。

最後に、現在、教育や学習におけるICTの利活用が進んでおりますが、図書館員の視点からお考えになっていることはございますか。

坂本:電子書籍や電子ジャーナルなど、電子リソースに対する学生のニーズは高いと思います。図書館機構では京都大学学術情報リポジトリKURENAIを始めとして論文や貴重資料の電子化・オープンアクセス化を推進しており、選書の一環で、オンラインを通じた期間限定の試読サービス*7なども実施しておりますが、いずれもよく利用していただいています。紙の図書の年間貸出冊数はあまり変わっていないのですが、電子書籍のニーズは高くなっていると個人的に感じます。

*7 例えば、2017年10月20日から2018年2月16日まで、ProQuest Ebook Centralの電子ブック試読サービスが実施された。詳細はこちら

そうなんですね。ICTとの親和性も高いということでしょうか。現在の動向を反映しているのかもしれませんね。坂本掛長、北村先生、お忙しい中どうもありがとうございました。

(聞き手:田口真奈・鈴木健雄/記事構成・写真撮影:河野亘/
インタビュー実施日:2017年12月8日/本記事公開日:2018年3月27日)