Topics教員インタビュー

MOOCを通してつかんだ
教え方のヒント

京都大学 大学院工学研究科 跡見晴幸先生

跡見先生は、京都大学のスーパーグローバル大学創成支援「京都大学ジャパンゲートウェイ」における国際的な教育発信の一環として、MOOC「003x The Extremes of Life: Microbes and Their Diversity」を2015年11月より配信されました。MOOCはface to faceで教えるわけではない分、教え方を考えるきっかけになったと、跡見先生は振り返られました。

研究途中の内容も授業に取り入れ、研究を追体験してもらえるよう工夫

跡見先生がMOOCを配信する経緯について教えてください。

はい。私が所属する工学研究科の化学系6専攻は、化学のスーパーグローバルコースを展開しています。私はそのユニットの中で英語の講義を担当していたこともあり、MOOCでの授業配信を任されました。
しかし、当初は、MOOCについてあまり把握していませんでした。最初は授業素材がどのように制作されているのかについても全く認識していなくって、後で編集の大変さも分かって、ちょっと申し訳ないことをしました。

授業では、どのような内容を扱ったのですか?

極限環境微生物という自分の研究の内容を取り扱ったのですが、それだけじゃなく、ゲノムの概念について少しでも受講生の方に触れていただきたいなと思い、そのような話題にも触れました。単に事実を伝えるだけでなく、現在まだ研究途中の内容も授業に取り入れ、研究を追体験してもらえるよう工夫しました。

専門的な内容を扱う際はできるだけイメージしやすいよう

MOOCの教材はどのように作られましたか?

これまでの授業の素材に加え、7割程度新しい素材を加えて授業を作っていきました。あまりこの分野に詳しくない受講生だと、あまり飛躍すると多分ついていけなくなると思ったので、ステップバイステップで内容を追っていけるよう工夫しました。また、専門用語が連続しないように、もし専門的な内容を扱う際はできるだけイメージしやすいように、という工夫もしました。例えばタンパク質の安定した構造の話をする際も、タンパク質内側は脂っこく水となじみにくい部分が集まっていて外側の表面は親水的であるというように、なるべく専門用語を避けて話しました。

MOOCでは流しっぱなしの講義ではなく、受講生の進捗をオンラインで確認する問題も作成しなければなりませんが、オンラインで採点する際、どのような工夫をされましたか?

今回のように選択肢問題だけで受講生を評価するのは初めてだったため、いくつかの工夫をしました。一つは、今回は生物学的観点からも授業を構成していったため、生物学的問題も多く作成し、一方で化学式などを問う問題は必要最低限に絞りました。また、間違った選択を選んだ時でも、それがなぜ間違いなのかを説明でき、間違いの選択肢からも学べるよう問題を工夫しました。

MOOCで授業を制作されて得られたことはありますか?

最初にカメレオンのアニメーション映像を説明として使いました。でも、その時は、全てが初めてでしたので、どのように作成されるのか、全然わかりませんでした。だけど、MOOCを作成する過程で、どういうことができそうかっていうイメージがつかむことができました。最初、温泉に行って、温泉にいる古細菌を撮影しましょう、と提案したんですが、実際には何をどうすればいいのか全くイメージがなかったんです。でも今はもう、ロケ地まで行って、こういう設備を持っていけば、こういう素材が出来るっていうのが分かるじゃないですか。次に提供するテーマがあった時に、これをいかにうまく表現するか、そのためにはどこまでが可能で、どこからがちょっと難しいかなっていうのが、今はなんとなく実感できるので、それは大きい収穫ですね。

掲示板のコメントが自分の授業に対するフィードバッグに

実際にMOOCで授業が始まって、どのように感じましたか?

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掲示板はよく見ました。世の中積極的な方が、多いんだなと。僕はどっちかっていうとあまり積極的ではないので(笑)。でも掲示板のコメントを読んでいると、あまりにもたくさんの人が同じことを誤解している、ということが途中で分かったんです。掲示板のコメントが自分の授業に対するフィードバックになりました。なんでそうなったんやろう...と、考えさせられますよね。それはよかったですね。それはどの科目でも、どなたがやっても、体験できることと思います。

じゃあ、掲示板の運営は先生が行われたのですが?

実際、掲示板での質問には僕とTAの学生二人で対応しました。回答も、TAたちと色々相談して、書き込みました。

4週目はコメントがたくさん書き込まれたようですが。

掲示板を見ていると、5~10%くらいの人は、すごく知識がある。それは遥かにうちの大学院生より上の知識を持っている受講者でした。最終回の4回目には最先端のゲノムの話を入れたので、その人たちにも届いたのかなと思います。
もちろん、難度が高い分、初学者は混乱すると思うので、最後にまとめの説明も加えましたが。

実際授業をやってみて、4週間というMOOCの期間はいかがでした?

授業後のアンケートを読むと、極限環境微生物というテーマを扱っておきながら、特定の環境とその環境中に生息する微生物の遺伝子の特徴との関係を体系的に紹介できていないという批判があったんですね。今回は説明の明快さに意識がいきすぎて、どの代謝経路を取り上げるべきかもう少し検討しておくべきだったと思いました。そうすると、ゲノムの分であと1週は絶対いりますし、今回実現できなかった日本の温泉から古細菌を見つけるという部分も増やしたいし、実験の部分も充実させたい、そう考えるとあと3週くらい増えるかなと思います。

簡単な説明で、むしろ分かってもらえるんちゃうか

MOOCを経験されて、やってよかった、と感じる点はありますか?

教え方は考えさせられますよね。色んな観点から何が一番いい教え方なのかを考え、選択してMOOCの教材にしました。face to faceの講義では、そこまで考えてなかったような気がします。そういう意味では、すごく勉強になりました。

先生の講義の仕方も今後変わっていきますか?

変わります!変わります!この部分は、ここから入った方がわかりやすいとかは、MOOCを配信して実感しましたから。説明の仕方も、内容の構成も変わると思います。僕の修士一回生向けの講義が京大で始まりますが、ゲノムの部分は、やっぱり参考にすると思いますね。また、タンパク質の構造の表現の仕方とか系統図とか、今までもっとややこしく説明していたんですが、今回のMOOCで随分易しくしました。でも、MOOCで使ったような簡単な説明で、むしろ分かってもらえるんちゃうかと思いました。

その他にも今回の経験が授業に活かされることはあるのでしょうか?

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今回、授業で説明した内容を使った実験を行い、それを映像化しました。普通の授業では実験はやりません。でも実験を見せると、講義の内容が実感できるし、すごく分かり易くなるんですよ。今回の実験はうまく反応しなかったので、もう少し分かり易い映像が撮れていれば、京大の授業でも使ってたかな。実際に講義室で実験をやると、ちょっとやりにくいんで、今回のように研究室で実験をやって、その映像を撮ると、普通の講義でも使えますよね。そういう意味では、普通の講義の幅も広がったと思います。
また、今回MOOCの教材を制作するにあたって、微生物の色んな写真を他の研究者の方々からいただいたんです。それまで僕は実際の微生物の画像を授業で使っていなかったので、今後は授業でも画像をたくさん使っていこうと思っています。

(聞き手:岡本雅子・酒井博之・田口真奈・香西佳美/記事構成:奥本素子/
インタビュー実施日:2016年4月5日/本記事公開日:2017年5月15日)

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