オンライン授業で、学習をどう評価するか

オンライン授業で学習を評価するにあたり、注意すべき点や具体的な方法についてまとめました。

オンライン授業において学生の学習をどのように評価することができるでしょうか。対面授業とは異なる難しさや想定しなければならない問題が存在します。

本ページでは、「評価をどう考えるか」「評価をどう実施するか」「評価ツールをどう活用するか」「トラブルにどう対応するか」「評価に際して学生に伝えること」といった5つの観点から、注意すべき点や具体的な方法について紹介します。 ここで紹介する内容は一般的な考え方になるため、多様な授業実践をカバーするものではありません。教員の方々の個々の状況にあわせてお役立てください。

なお、本ページの内容については、〔2020-18〕 オンライン授業に関する講習会「オンライン授業の評価をどう考え、実施するか」(2020年6月9日)の動画および資料【いずれも学内限定】も併せてご覧ください。

評価をどう考えるか

学習を評価するとは

学習評価とは、学生の学習を成功に導くために、①学習実態を把握し、②適切なフィードバックを行い、③学習活動の成果を学習目標に照らして判断する営みのことを指します。

学習評価には、授業開始前・開始時に行う「a. 診断的評価(diagnostic assessment)」、授業期間中に行う「b. 形成的評価(formative assessment)」、授業終了時・終了後に行う「c. 総括的評価(summative assessment)」の3種類の評価が含まれます。
  a. 診断的評価の例: プレイスメントテスト、初回テスト等
  b. 形成的評価の例: 小テスト、中間テスト、ミニッツペーパー、振り返り等
  c. 総括的評価の例: 期末試験、レポート等

対面とオンラインの違い

オンラインによる客観テストでは、不正行為を防ぐことは困難です。一方、客観テスト以外の方法では、対面とオンラインに差はありません。

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評価をどう実施するか

試験方法・試験問題を工夫する

試験方法を工夫する

不正行為をなるべく防ぐ方法として、以下のものが考えられます。
・試験問題のパターンを複数用意する
・試験問題の提示順序をランダムにする
・解答時間を細かく区切る(一問ごと等)
・試験時間中、回答の様子をライブで中継する+手元や試験を受けている場所全体が映るように別のカメラを設置する

試験問題を工夫する

暗記型の問題を減らし、問題自体を資料参照やネット検索にも耐えられるものにする方法があります。
・解答に加え、解答手順や使用した法則・原理も記述させる
 (手書きの場合なら、結果を静止画で、プロセスを動画で撮影・送信させる等)
・学習した概念やキーワードの関係性を図示(コンセプトマップを作成)させ、それについて説明させる
・一定の条件を付けて、学生自身に問題を作らせて解答させる

さらに、従来教室で行っていたような筆記試験・客観テストをオンライン上で実施する以外にも、以下のような形の試験があります。
・Take Home Exam(宿題の形で実施する試験)
 教科書や文献を見ながら解答してもよい試験で、提出期限を設けて行います。記述式で答えることが一般的です。
・Open Book Exam(持ち込み可の試験)
 教科書や講義ノート等、指定されているものを持ち込み、試験を受ける方式です。

  Take Home ExamやOpen Book Examに適した質問例
  The University of Newcastle, Australia, Centre for Teaching and Learning 'A guide for Academics - Open book exams'より一部抜粋
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評価方法を検討する

多様な評価方法を検討する

・客観テスト以外の方法を導入する
授業内外での小テストや論述・レポートに加え、振り返り、アンケート、自己評価・相互評価等の提出や内容も評価に加えることが考えられます。

・評価の配分比率を検討する
例えば小テスト4割、論述・レポート3割、振り返り2割、自己評価1割等、テストの評価に占める割合を下げることが挙げられます。

形成的評価を取り入れる

・授業最後にテストを一回行う (総括的評価のみ)のではなく、各回に評価課題を分散させ、それらの積み重ねで評価する方法があります。

・出席だけでは評価対象にできませんので、授業内でのミニッツペーパー(ICTを活用した振り返り)や確認テスト等と組み合わせて評価することも可能です。

・適宜アンケート等も行い、評価と同時に学生の授業理解度を把握することも重要です。

オンラインによる筆記試験で不正行為を防止するための実施方法の工夫

・授業の内容によっては、筆記試験をレポート等の別の評価方法に代替することが難しい科目もあると思います。以下のサイトでは、Web会議システム等を用いた試験実施上の工夫を紹介しています。
 ・京都大学高等教育研究開発推進センターHP「教育アセスメント」

評価ツールをどう活用するか

PandA(LMS)を活用した評価

課題ツール

課題の出題をはじめとし、受講生による提出から採点・返却までの一連の流れを行うことができるツールです。公開・締切日時の設定も可能です。授業内外でのレポート課題等に利用できます。
詳しくはこちらをご覧ください(PandA公式ガイドブック,pp.34-41)。

「テスト・クイズ」ツール

選択形式、正誤問題、回答記述形式等の簡単な小テストを作るツールです。「配点」で得点を入力して決めておくと、正解に応じた得点が自動的に集計されます。授業内外での理解度確認テスト等に利用できます。
作成できる問題の種類には、以下のようなものがあります。
・穴埋め問題や、数値を入力する問題
・正誤を問う問題
・短文を記入形式で回答する問題

PandAのテスト・クイズツールの概要はPandA公式ガイドブック,pp.42-45をご覧ください。
PandA のテスト・クイズツールを用いてオンラインテストを実施するための詳細マニュアルはPandA テスト・クイズツールの利用法をご覧下さい。
〔2020-23〕 講習会(オンライン試験の方法)「オンライン試験/PandA テスト・クイズツールの利用法」の動画・資料もご参照ください。

Zoomを活用した評価

「投票」機能

作成した多肢選択式の問題を受講生に回答させ、その結果を受講者と共有することができます。あらかじめ問題を作成しておくことも、授業内で進行に応じて作成することも可能です。
また学生のアカウントが紐付けられていれば、回答結果のファイルを「投票レポート」からダウンロードすることで、誰がどのような回答をしたかも把握できます。
投票の作成はホストのみ可能です。

「チャット」機能

質問や回答等を送受信ができるほか、ファイルを添付して配布することも可能です。投稿者の氏名が明示され、ログも保存できるので、後から確認して学生の反応を評価に加えることができます。
他にも「レコーディング」機能を活用することで、学生の発言回数や内容等を評価の対象に加えることも可能です。

Zoomの使用に関する情報として、こちらもご参照下さい。

その他のICTを活用した評価

ウェブアンケート

授業中、あるいは授業終了後に、あらかじめ作成したウェブフォーム(GoogleフォームやREAS 等)へ誘導し、アンケートに入力させることで、学生による授業の振り返りに活用することができます。授業時間外学習を促す手段としても有効です。
主な質問項目として、
・授業理解度や授業への関与の度合いに関する自己評価
・授業内容についての振り返りや、学生自身の言葉を用いた説明
・授業に関する質問についての自由記述
が挙げられます。
また、CSVファイルで集計結果をダウンロードすることで、評価の一部として算入したり、その内容を次週の授業で紹介・フィードバックすることも可能です。

意見集約・共有(授業内の理解度把握や意見収集で活用)

あらかじめ作成、あるいはその場で作成した質問をクリッカーやMentimeter等を活用して学生に答えさせることで、リアルタイムで学生の回答結果を可視化することができます。
授業内での理解度の把握や意見収集に便利で、かつ即時的なフィードバックが可能です。

ルーブリックを活用した評価

ルーブリックとは

論述・レポート等の提出物や、実験・プレゼンテーション等の振る舞いを評価し、フィードバックするための評価基準表のことを指します。
ルーブリックは、下の図のように「評価の観点(規準)」「評価尺度(3〜5段階が一般的)」「具体的な評価の記述語(基準)」の3つの要素から成ります。課題に応じた内容のルーブリックを策定することが求められます。

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ルーブリックを活用する

ルーブリックの利点として、以下のように「指導」と「評価」を一体的に行える点が挙げられます。
・学生にあらかじめ明示することで採点基準を明確化し、課題に求められる質について理解を促すことができます。
・評価尺度に点数を割り当てることで、得点化することができます。
・同時に評価尺度のどの段階に位置しているかを学生にフィードバックすることで、学生の指導にも役立ちます。
・学生自身のルーブリックを用いた自己評価や学生同士での相互評価にも活用できます。

ルーブリックは一から作らなくても、他の教員が作成したルーブリックや、日本高等教育開発協会「ルーブリックバンク」等のインターネット上に公開されているルーブリック等を元にカスタマイズして使用することも可能です。

トラブルにどう対応するか

あらかじめトラブルに備える

とくに、オンライン授業の実施にあたっては、評価方法・基準が当初のシラバスと異なる内容になっている場合も多いと思われます。その際、何をどのように変更したのかを学生に伝えることが求められます。
また、どのような方法で評価を実施するのかを学生に早めに伝えることで、トラブルを未然に防ぐことが期待できます。

通信に伴うトラブルに備える

オンライン授業では、通信に伴うトラブルが多く報告されています。評価の際の通信に伴うトラブルを抑制する方法として、以下の方法が考えられます。
・学生が課題等を提出する際には、提出した証拠となるものを残しておくよう伝える
 (データのバックアップを取る・スクリーンショットで画面を記録/保存する等)
・TA等を活用し、事前にリハーサルを行う
・1つだけでなく、複数の提出方法を準備・告知しておく
・通信トラブルが発生した場合の連絡先や対応方法等を予め伝えておく

不正行為に対応する

不正行為が生じた場合の対応を検討し、伝える

不正行為が生じた場合の対応方法としては、以下のものが考えられます。
試験中の場合
・その場で解答を止めさせたのち、学生情報を聴き取り、退席させる
試験後の場合
・学内に届け出るとともに、本人に聴き取りを行い、指導する

レポートの剽窃に対応する

提出されたレポートに剽窃がないかを確認するためには、剽窃チェッカー等のICTが利用できます。

評価に際して学生に伝えること

評価の方法・基準を伝える

とくに、オンライン授業の実施にあたっては、評価方法・基準が当初のシラバスと異なる内容になっている場合も多いと思われます。その際、何をどのように変更したのかを学生に伝えることが求められます。
また、どのような方法で評価を実施するのかを学生に早めに伝えることで、トラブルを未然に防ぐことが期待できます。

学問的誠実性 (Academic Integrity) の重要性を伝える

学問に関わる全ての人にとって、学問的誠実性、すなわち学問的に望ましい行いについて理解し、責任感を持ち、倫理的に行動できるスキルを身につけていることはとても重要なことです。また、学術のコミュニティに関わる一員として、学問的誠実性を大切にしようとする大学文化を学生と共有しましょう。
そのためにも、学問的に望ましい行いとはどのようなものか、あるいは不誠実な行いとはどういったものか(剽窃や不適切な協働作業、複製、不正行為など)、なぜ学問的誠実性が重要なのか等について学生と話をする機会を設けるといいでしょう。例として、以下に米国コロンビアカレッジにおける学生の学問的誠実性に関する倫理規定を挙げます。

Columbia College Honor Code(コロンビアカレッジ倫理規定)
The Columbia College Student Council, on behalf of the whole student body, has resolved that maintaining academic integrity is the preserve of all members of our intellectual community - including and especially students.

As a consequence, all Columbia College students make the following pledge:

We, the undergraduate students of Columbia University, hereby pledge to value the integrity of our ideas and the ideas of others by honestly presenting our work, respecting authorship, and striving not simply for answers but for understanding in the pursuit of our common scholastic goals. In this way, we seek to build an academic community governed by our collective efforts, diligence, and Code of Honor.

In addition, all Columbia College students are committed to the following honor code:

I affirm that I will not plagiarize, use unauthorized materials, or give or receive illegitimate help on assignments, papers, or examinations. I will also uphold equity and honesty in the evaluation of my work and the work of others. I do so to sustain a community built around this Code of Honor.

(日本語訳)

コロンビアカレッジ学生自治会は、カレッジに所属する全ての学生を代表し、学問的誠実性を維持することは、特に学生を含め、知的コミュニティの全てのメンバーの守るところであることを決議した。

これにより、全てのコロンビアカレッジの学生は以下について誓約する:

コロンビアカレッジの学部生である我々は、自身の知見を正直に公開すること、著作権を尊重すること、そして単に解を求めるのではなく我々共通の学術的目的を追求し理解を深めることを通じて、自分自身そして他人のアイディアに対する誠実性を尊重することを誓約する。このようにして、我々は集団的な努力、勤勉、そして倫理規定によって治められたアカデミックコミュニティを構築することを希求する。

また、全てのコロンビアカレッジの学生は以下の倫理規定を遵守する:

私は剽窃をせず、無許可に資料を用いることや課題、論文や試験において認められていない手助けを得ることはしないことを誓う。私は、また、私の著作物や他人の著作物の評価が公正であることを支持する。この倫理規定に基づいて構築されているコミュニティを維持するために、このようなことを遵守する。

出典: https://www.college.columbia.edu/academics/academicintegrity

学問的誠実性を意識させる仕組み

学問的誠実性を意識させる仕組みとして、オンラインでの試験を始める前等に、以下のような誓約を読んでもらい、合意する場合には"合意する"という選択をしてもらってから試験に入るという方法があります。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学健康運動科学科の事例(講義ノート、講義で使用した文献のみ持ち込み可の場合)
I pledge to uphold the highest standards of ethics and academic integrity as a future health professional. I will abide by the rules my instructor has provided for the final exam and will not violate the UBC Academic Honesty and Standards Policy.

This means that I will only use my course notes/readings and will not use any other outside assistance (no internet or other people including my peers)

(日本語訳)

私は将来健康に関する専門家として高い倫理と学術的誠実性の意識をもつことを誓います。最終試験に関して授業担当教員が定める規定に従い、UBCの学問的公正および水準に関するポリシーに従います。

従って私は試験において講義ノートおよび文献のみを利用し、その他の支援は利用しません(インターネットでの検索、同級生等からのアドバイスなど)

出典: https://ctl.ok.ubc.ca/teaching-remotely/final-exams/integrity-pledge/より抜粋

学問的誠実性として具体的に扱う内容

コロンビアカレッジの倫理規定に書かれているように、学問的誠実性の概念は抽象度の高いものです。具体的に、どのようなことができていることが学問的誠実性を身につけているということになるのでしょうか。欧米の大学において学生向けに発行されているハンドブックの事例から代表的なものを紹介します。主なものとしては、MITのAcademic Integrityに関するハンドブックや、プリンストン大学が公開している冊子があります。(いずれも英語)
・オリジナルな著作物であるということの意味について
・適切な引用方法
・剽窃の事例
・共同作業における注意点
これら具体的なスキルについては、研究活動における倫理教育と重複する部分が多くあります。
(参考)日本学術振興会「科学の健全な発展のために」編集委員会編『科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得- 』

学生向け書類「オンライン試験を受けるにあたって/ルール遵守の誓約」の具体例

オンライン試験を実施するにあたって、学生に対してそのルールを伝え、ルールを遵守することを求める際の具体例を記載しています。実施方法や目的に応じて適宜、改変してご利用ください。

参考資料
名古屋大学教養教育院「オンライン授業で試験と成績評価を行うための教授法 (ティップス)」
・中島英博編『シリーズ大学の教授法4 学習評価』玉川大学出版部、2018年
大阪大学全学教育推進機構「オンラインで学習を評価するための10のポイント」