Topics教員インタビュー

おもてなしの議論を通して異文化を理解する

京都大学 経営管理大学院 山内裕先生

山内先生は、MOOC「002x Culture of Services: New Perspective on Customer Relations」というサービスをテーマにした講義を2016年1月より配信されました。山内先生のMOOCではHomeworkでディスカッションの課題を出すなど、学びあう仕組みづくりにも取り組みました。

慣れるまでは大変だが、後々使えるというメリットはとても大きい

山内先生はMOOCを始める際、MOOCを既にご存知だったのでしょうか?

MOOCについて聞いたことはありましたが、要はニュースでキーワードを見るぐらいのもので、それについて調べたりとかということはなかったので、おおよその知識しかありませんでした。

はじめにMOOCでコースを配信するという話があった時、どのように思われましたか?

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これは多分、NOとは言えないんだろうと...(笑)。MOOCをやるのは悪い話じゃないなとは感じたのですが、大変そうだなという印象も持ちました。ただ、やるのはいいことなので、やるからには、メリットがある形でやりたいと考えました。

「いいこと」というのは具体的にどういう意味ですか?

情報発信の一つの形として、いいことだろうということです。また、京大がやっているプロジェクトですので、それに貢献するのもいいことだろうと。
お話を頂いたのが、ちょうど新たに本を上梓する時期でもあったので、その発信という点でも良いタイミングでした。

MOOCを終えていかがでしたか?

総じて慣れると全然負荷は高くないですが、慣れる前がやっぱり。講義動画の収録も精神的にしんどいですしね(笑)。5、6回収録したぐらいから効率的になってきたと思います。トレーラー動画の撮影も、慣れてきた頃にできたら、良かったのかもしれません。ただ内容は、インパクトのあるすごくいいのができて、満足しています。

edXのスタッフとのミーティングでも、山内先生のトレーラーはかなり評判が良かったです。

結果論ですが、慣れてないのも良かったのかもしれませんね。あと、トレーラーを使ってバナーを作っていただいたじゃないですか。あれを最近、よく使っていまして。だいたい、講演するときのスライドの一番目にあれを使うのですが、すごく評判がいいんですよ。やはりMOOCで講義を制作すると後々使えるというメリットがものすごく大きいですね。

MOOCを制作されるにあたって、普段の講義と今回のオンライン講義との作り方の違いはありましたか?

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最初にMOOC用に初回の授業のスライド資料を作成したのですが、まず内容を詰め込み過ぎていたと思うんです。90分の授業では、それなりの分量をスライド資料に詰め込みます。しかしMOOCの場合は一つの講義動画が5分程度のため、あんまりややこしい話はできないし、テーマも一つや二つに絞る必要があります。その辺の感覚が最初は分からなかったんですよね。MOOCの制作に慣れていなかったため、5分で収めるというのが、なかなか難しかったです。
あとMOOCの場合、受講者は講義ビデオを何回も観られますので、あんまりくどく言わないっていうことも心がけました。授業とか講演だと、どうしても同じことを何回も違う言葉で説明する必要があるのですが、MOOCでは最初に講義で話す内容を書き起こしたスクリプトを作成するということもあって、そういう重複もどんどん省略されていきましたね。

先生は、スライド資料を作成した後に、スクリプト資料を作成されるのですか?

基本的にはそうですね。ただ、スライド資料を作成して、スクリプトを書いていると段々おかしいなというところに気がつくので、またスライド資料を直して、っていう感じで授業資料は作成していきました。

また、先生は今回ご著書の内容を活かしてMOOCを制作されたのですが、新たに情報収集されたことはありましたか?

まず、MOOCのために調査をおこない、データを追加しました。具体的にはearth music&ecologyとThom Browneという対照的なアパレルショップの接客を撮影し、そのデータをMOOCでは使用しました。この講義のために撮影した動画だったので、顔にモザイクをかけるといった加工をせずに公開できる映像素材が出来上がりました。そのことはMOOCの講義素材としてはすごく良かったんじゃないかと思います。

トータルで見て、今回のMOOCの制作時間と今までの授業の準備時間に差はありますか?

MOOCでは多少気を使って資料を作るため、ちょっと時間がかかるかな、と思います。またスクリプトを書かないといけないということがあります。あとは、収録ですが、収録は慣れればそれほど負担には感じません。途中から時間がかかったのが、講義内のProblemやHomeworkの作成ですかね。特に今回は受講者同士が採点するPeer Reviewを導入したので、時間がかかりました。

掲示板を使った課題は受講者同士の異文化理解にもつながった

先生は、掲示板を使った受講者同士のディスカッションを課題に出されましたね。実際に講義が始まると、先生自ら掲示板にもコメントを書き込んで頂いていたんですが、負担ではなかったですか?

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山内先生が課した課題と受講者からの回答(個人情報に関わる箇所は伏字加工をした)。

SNSを読んでいるのと変わらないため、負担は感じませんでした。そして掲示板ではときに非常に重要な質問もありました。講義でカバーできていない部分の質問に対しては掲示板できちんと返答することで、他の受講者にも伝わると思ったので。
掲示板の書き込みを読んでいると、受講者は結構真剣に取り組んでくれているなと感じました。コメントのなかには、もうちょっと知りたいんだけど、という意見もありました。ある質問に対して、他の受講者がこんな文献があったよ、って教え合う場面もありました。そういう場面はすごく良いなと思ったんですが、同時にこちらから参考文献をあらかじめ用意しておいて、興味のある受講者にはこれを読みなさいって勧められる準備をしておけばよかったなと思いました。

世界中の文化について議論させるという課題を出されましたが、そこからご自身の研究なり教育なりにフィードバックできそうなところというのはありましたか?

若干、ちゃんと使い切れていないですね。というのは、 まず量が膨大なので。ただ、あれはあれで、すごい良かったなと思っています。受講者は結構みんな楽しく議論に取り組んでくれたんじゃないかと思うんですよね。今回の課題は、ホスピタリティという言葉の、自分の文化について語るというものだったんですけど、ホスピタリティという言葉は倫理や存在論にも直接つながるのですが、それを議論する場は受講者にとっても多分そんなにないと思います。自分としてはホスピタリティについての情報が集まればいいと思って出した課題だったんですが、蓋を開けてみれば、ただ単に情報を得ただけでなく、受講者同士が他の文化を理解することにつながったように思います。そういう意味ですごい良かったと思います。

受講者同士でやりとりしていると、モチベーションの維持にもつながりますよね。

ええ。やっぱり、ちゃんとフォーマットを作って、今回の情報をデータベース化できたら良かったなと思いました。

海外の研究仲間に情報発信できた

最後に全体の感想をお聞かせ願えますか?

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まず、私はMOOCをやって良かったと思いましたし、他の人にもどんどんやってもらいたいなと思います。何が良かったかというと、やっぱり自分の仕事につながるんですよね。今回、MOOCを提供したのは、大学教育のためっていう部分も大きかったんですが、それだけでなく、例えばサービス研究の大御所の研究者や海外の研究者にMOOCのことを知らせると、メーリングリストで案内してくれたみたいな話からはじまって、シンガポールのある企業では職場全員がこのコースを受けたりとかいった状況もあって。ちょうどこのコースがはじまった時期に、シンガポールにいたのですが、そのうちの一人に会って色々と話をしたり、そんなつながりも出来ました。同業者を含め海外に情報発信できたという点が良かったですね。
他には、今回のMOOCで作成したトレーラーはインパクトがあったんで、サバティカルで海外にいく際にも、自己紹介のメールに添えると、あちらでも見てくれたようです。トレーラーはやはり分かりやすく私の研究内容がまとまっているので、作成してすごく良かったかなと思います。

今回、山内先生の講義は8週間という期間で配信されましたが、その長さについてはどう思われますか?

個人的には、ちょうどいいくらいだと思います。おそらくMOOCとしてはそれ以上長いとしんどいかもしれません。

8週間というと1単位分に相当しますよね。将来的に経営管理大学院からこのようなMOOCを出すということになると、どのような形で活用できるとお考えですか?

やはり反転授業としての活用を考えています。経営管理大学院での授業は博士向けなので受講者は少ないんですが、講義部分はMOOCを見せて、ディスカッションは対面の授業で、という授業展開が考えられます。直近では、12月に2週間、集中講義で用いることを考えています。

(聞き手:岡本雅子・酒井博之・田口真奈・香西佳美/記事構成:鈴木健雄・奥本素子/
インタビュー実施日:2016年5月27日/本記事公開日:2017年6月9日)

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