Topics教員インタビュー
情報基礎演習:大人数に対するきめ細やかなフィードバックの工夫
京都大学 高等教育研究開発推進センター 酒井博之先生・岡本雅子先生、国際高等教育院 喜多一先生
大学における知的生産活動に必要となるものという観点からICT(情報コミュニケーション技術)の扱い方を教えるのが、今回ご紹介する「情報基礎演習」の授業です。同授業では、技術のみを取り出して教えるのではなく、読み手・聞き手のことを考えてどう整理するか、書いたもの・まとめたものに一貫したロジックをどうもたせるかについても指導されています。
この度、この「情報基礎演習」を担当されている酒井先生、岡本先生並びに喜多先生に、同授業がどのようなコンセプトで設計されたのか、そして毎週2回 約200名の学生に対してフィードバックをするために、どのような工夫をされているのか伺いました。
なお、本インタビューは新型コロナ感染症拡大以前の2020年2月に実施されたものです。現在の本授業の様子については、本インタビュー最下部、丸囲みの箇所にまとめてあります。(本文中、敬称略)
【追記】PandAとmksummaryのアップデートに伴い、注記を追加するとともに、PandA上での課題データのダウンロードの仕方の画像と、mksummaryの使い方のデモ動画を更新しました(2021年6月7日)。
- プロフィール
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酒井博之先生:京都大学高等教育研究開発推進センター准教授、博士(学術)。 神戸大学大学院自然科学研究科助手、京都大学高等教育研究開発推進センター助手等を経て、2008年より現職。専門は教育工学。教育、研究活動と合わせて、京都大学が世界に公開する MOOC(Massive Open Online Courses)のコースの制作や、学内版MOOCである KoALAのプラットフォーム構築・整備、コース制作において、統括マネージャーも務める。
岡本雅子先生:京都大学高等教育研究開発推進センター特定講師、博士(情報学)。京都大学高等教育研究開発推進センター特定助教等を経て、2019年より現職。専門は情報教育。教育、研究活動と合わせて、酒井先生とともにMOOC、KoALAの制作にコースプロダクションマネージャーとして関与。現在開講されているほぼすべてのMOOC、KoALAの制作を手がけてきた。
喜多一(はじめ)先生:京都大学国際高等教育院教授、博士(工学)。京都大学助手、東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授、大学評価・学位授与機構 評価研究部教授、京都大学学術情報メディアセンター教授を経て、2013年より現職。専門は情報工学、システム工学、教育工学他多岐に亘る。2013年から2016年にかけて国際高等教育院副院長として全学共通科目の改革に携わったほか、2016年9月には情報環境機構機構長に就任、現在に至る。手がけた教科書「プログラミング演習 Python 2019」(学術情報リポジトリKURENAIの該当ページ)は、そのわかりやすさからネットで評判となり、26万ダウンロードを記録(本記事公開時)している。
アカデミックな活動に必要となるICTスキルを
先生が担当されている「情報基礎演習」について教えてください。
高等教育研究開発推進センターの酒井先生
酒井・岡本:全学共通科目「情報基礎演習」は、主に1回生を対象に、大学生活を送る上で必要となる、ICT(情報コミュニケーション技術)の基礎的な知識と技能を演習形式で教えるものです。
半期15回をかけて、コンピューターの基本的な操作方法から、レポートやプレゼンテーション資料の作成方法、情報セキュリティと情報倫理、情報検索の方法、さらにプログラミングの基礎まで扱っています。
同じ名前の授業は他にもあり、酒井と岡本で担当するのは、そのうち前期・後期それぞれ3コマの計6コマです。前期が全学部・全回生向けで、後期が農学部・1回生向けです。全学部向けの方は、文系の学生を中心に1コマあたり20〜50名くらいが受講しています。農学部向けの方は、クラス指定科目ということもあり、1コマで50〜90名くらいが受講しています。
本日ご同席されている国際高等教育院の喜多一(はじめ)先生は、人間・環境学研究科の日置尋久(ひろひさ)先生と一緒に1コマを担当されています。
演習形式の授業で、1コマ90名というのはすごいですね。
同じく高等教育研究開発推進センターの岡本先生
農学部の定員が300名なので、全員が授業を取れるようにするとそれくらいのサイズになるのです。3コマ合わせて約200名と考えると、選択授業にも関わらず、農学部の1回生のおよそ7割が参加してくれていることになります。
この教室が70名定員のため、90名のクラスではこの教室ともう一つ、向かいの教室を同時中継でつないで授業を実施しています。向かいの教室はTAに対応してもらっています。
授業はどのような流れで実施されているのですか。
酒井先生、岡本先生が授業をされている教室風景。右奥のカメラで講義風景を撮影、向かいの教室に配信することができる。
全15回のうち最初2回を座学に割り当て、OSやネットワーク関係のレクチャーを行っています。
それ以降の回は基本的に演習形式で実施しています。演習の際は、授業の冒頭に10〜15分くらいでその回の授業で扱う内容を説明し、そのあとは各自で教科書をみながら演習課題を解いてもらっています。
その間、教員とTAが受講生の様子を見ながら適宜介入しています。またそれとは別に、分からないことがあった場合、受講生同士で教えあうことも推奨しています。
受講生同士で教えあうことを推奨されているのですね。
はい。扱う内容の特性上、パソコンの操作にどの程度慣れているかや、ワードやエクセル、パワーポイントといったOfficeに触れたことがあるか、タイピングが得意かどうかといった受講生の既有知識やスキルによって演習課題にかかる時間が異なってきます。そのため、早くできた受講生には、周りの学生のサポートを積極的に行ってもらっています。
教科書を拝見すると知的生産に関する章があったりして、PCやネットの使い方だけを取り出して教えるわけではないのですね。
知的生産の章の冒頭抜粋。レポート作成などの活動を知的生産と捉えて説明している(クリックして拡大)。本編はこちら(京都大学学術情報リポジトリKURENAI)からダウンロード可能。
詳しくは後ほど、喜多先生にお話し願えたらと思うのですが、本授業の目標の一つは、アカデミックな活動に必要なICTスキルを身に着けることにあります。そのため図書館での情報探索の方法や、レポートの書き方、アカデミックなプレゼンテーションの仕方といった、大学生活に必要となる能力のうち、「情報」に関わるものを満遍なく扱っています。
図書館での情報探索を扱う回では、附属図書館の北村由美先生や西岡千文(ちふみ)先生をはじめ図書館員の方にも協力いただいています。
この教科書は主にWindowsユーザ向けに書かれたものなので、Macの場合、操作が異なるものについては、別途用意しているMacユーザ用マニュアルを配布しそれで読み替えて下さいねと伝えています。
また、教科書の英語版も公開しています。
成績評価はどのようにされているのですか。
毎回の授業で、授業内で取り組んでもらう課題とその日の宿題という二つの課題を出しています。両者の解答をPandAの課題ツール上で提出してもらい、それを採点し、課題ごとに重み付けを調整しつつ合算することで、成績としています。
提出された課題に対して、何かフィードバックはしているのですか。
授業の様子を説明する酒井先生。
PandAの課題ツールでフィードバック・コメントが返せるので、点数とともにコメントを返しています。ワードを使ったレポート課題やプログラミングの課題なんかもあるので、翌週の授業までに約200名全員に対して採点してコメントをつけてとなると結構大変で。それを少しでも楽にするために、喜多先生と情報環境機構の青木学聡(たかあき)先生(現在は名古屋大学情報連携推進本部)が作成された「mksummary」、「placecomments」というツールを利用しています。
200名の学生に対して週に2回フィードバックするために:
mksummaryとplacecommentsの利用
前期で80名、後期で200名の受講生の、しかも演習課題となると、採点だけでも大変ですね。mksummaryとはどんなツールなのですか?
mksummaryは、PandAの「課題ツール」で提出された回答を一覧化し、続けて採点できるようにしてくれるツールです。
通常、PandAの「課題ツール」で採点するには、学生1人ずつ1つのページを開いて採点する必要があります。そのため、1人の採点が終わるごとに1つ1つページを開く手間があるのと、ある程度の人数がいる場合、どこまで採点したかが分からない、あるいはすでに記入した点数やコメントを振り返って参照しづらい、といった難点がありました。
これらの点を解消するために開発されたのが mksummaryです。PandAの補助ツールと考えていただけたらと思います。
具体的な使い方を見せていただけますか。
はい。Windowsで説明しますね。まず、こちらのWebサイト【学内限定】からmksummaryのダウンロード用パッケージをダウンロードし、「windows」というフォルダを開きます。「mksummary.exe」と「placecomments.exe」のファイルが入っています。
その上で、PandAの「課題」ツールから、提出物の一覧ページを開き、右上にある「すべてダウンロード」をクリック、次のページで「すべて」にチェック、「成績ファイル」を「Excelフォーマット」に設定し、課題のデータをダウンロードします(以上、左図参照)。
ダウンロードされたフォルダ内にある「grades.xls」を、先ほどダウンロードしたmksummaryのパッケージ内の「mksummary.exe」へとドラッグ&ドロップすると、mksummaryのプログラムが起動します。それが終了すると、課題のフォルダ内にいくつかのファイルができています。
そのうち「summary.html」というファイルをダブルクリックすると、ブラウザが起動し、提出された課題を1つのページ上で一覧して閲覧、採点できるようになります。
【2021年6月7日 追記】
PandAとmksummaryのアップデートに伴い、上記、PandA上での課題データのダウンロードの仕方の画像と、mksummaryの使い方のデモ動画を更新しました。なお、本文中、mksummaryのダウンロード用パッケージ内「windows」というフォルダの中身を、「mksummary.exe」と「placecomments.exe」としていますが、現在のバージョンでは、「mksummary-for-p20-01.exe」「mksummary-for-p20-FB.exe」「placecomments-for-p20-01.exe」の3つのファイルが格納されています。
これはすごいですね。添付ファイルもまとめて見られるのですか。
はい、添付ファイルはリンク表示となり、そのリンクをクリックするとPC内に保存された該当のファイルを提示してくれます。
締め切りに遅れた人に対して一律で減点することも可能なので、実際の採点時は、締め切りの日時と一律減点の数を最初に設定しそれを反映した上で、一人ずつ採点基準に準じて採点していっています。
採点基準は学生にも提示しているのですか。
はい、課題を出すときに合わせて採点基準も示しています。そして、できていないところがあれば、コメント欄にどこができていなかったかを記入した上で返しています。
コメント自体はPandAでも返せますが、mksummaryを使うことで一覧して回答することができるので、前に記入したコメントを参考にしたり、よくある間違いについては予め準備した文言をコピー&ペーストで返したりできて、便利です。採点基準にブレがないかをチェックすることもできますね。
一人一人丁寧にコメントを返されているのですね。採点にはどれくらい時間をかけているのですか。
前期と後期で受講人数が違うのと課題によって手間が全然異なってくるので一概には言えませんが、後期の授業でワードのレポート課題とかですと、まず1日では終わりません。200名分について細部まで見なければならないので、週末にまとめて採点・コメント付けをすることもあります。
また、この授業の特性上、授業中に出した課題と授業後の宿題、それぞれに対して採点とフィードバックをする必要があります。人数だけでなく複数授業が並列で走っているため、頭を整理するのがなかなか難しいですね。
そうなると、やはり少しでも効率的に行う必要があり、mksummaryは本当に重宝しています。
採点側のモチベーションを保つという点では、ブラウザ上に示される位置を示すバーの存在も地味にありがたいですね(笑)。どこまで採点が終わり、あとどれくらいというのが可視化できます。
もうひとつの placecomments はどう使うのですか。
こうして採点・コメントしたデータを、PandA上の課題データに反映させるのに、placecommentsを使います。
具体的には、mksummary上でデータを「CSV形式でダウンロード」し、元の成績フォルダに戻します。さらにその「scores.csv」をplacecomments.exeへとドラッグ&ドロップすると、placecommentsのプログラムが起動し、いくつかの新しいファイルが元のフォルダに生成されます。
そのうち、「grades.zip」というファイルをPandA上の元の課題ページで「すべてアップロード」することで、PandAのデータに採点結果がコメントともに反映されます。なお、ここでも「成績ファイル」は「Excelフォーマット」を選択、また、「フィードバックコメント」にチェックを入れて、「アップロード」します。
最後にPandAの課題上で「成績を開示」というボタンを押すことで、学生の方からも点数とコメントが見られるようになります。 (※詳しい操作方法については、喜多先生が作成されたこちらの動画をご覧ください。)
ありがとうございます。ただ、初めて触る人間からすると、少々複雑な感じも受けますね。
最初は複雑に感じられるかもしれませんが、慣れたらそうでもなく、メリットの方が大きいです。マニュアル(学内限定)や説明動画も整備されているので、ぜひ利用してみてください。
先生の授業では他にも特別なツールを使っていると聞きました。
「授業支援ボックス」のことですね。こちらも喜多先生に紹介していただいて利用しています。ゼロックスの複合機用の特別なアタッチメントのことで、QRコードのついた専用の紙を使ってスキャンすることで、学籍番号にOCR(Optical Character Recognition:光学文字認識。紙に書かれた文字を読み取り、テキスト化してくれる機能のこと)をかけてくれ、さらに自動でPandAにアップロードしてくれます。PandA上でみると、スキャンした回答用紙のデータが学籍番号ごとに割り振られて、各学生の課題として提出されたように見えます。
「授業支援ボックス」のついた複合機の数は限られていて、私は、授業を行なっている建物(学術情報メディアセンター南館)の1階にあるものを使っています。
どういった場面で、使われているのですか。
グループワークの発表時に、学生同士で相互評価(ピア・レビュー)させた評価シートを読み取るのに使っています。PandAでも同様の機能があるといえばあるのですが、手書きの方が、その場でメモしやすいということもあり、あえて紙に書いてもらっています。なお、あらかじめ評価の観点は伝えておいて、それに即して評価してもらっています。
スキャンした回答結果は、Pythonで書いたプログラミングを介して、グループ毎に評価コメントをまとめ直して、学生たちに返しています。授業時間中には自分たちの発表に対する評価を読む時間を設けているのですが、学生はかなり熱心に読んでいます。「あとでみんなで読んでもらうからね」とあらかじめ伝えてはいるからかもしれませんが、親身なコメントが多く、皆ニコニコしながら読んでいますね。
逆向き設計で生まれた授業とその効果
本当に手厚くフォローされているのですね。そもそも「情報基礎演習」はどういったコンセプトで生まれた授業なのですか。
酒井:その辺りは、この授業の改組・立ち上げに加わられました、喜多先生にお答えいただけたらと思いますが、喜多先生いかがでしょうか。
情報環境機構長で、元国際高等教育院副院長の喜多先生。「情報基礎演習」の改組は、喜多先生が副院長時代に実施された。
喜多:もともと各学部や各学科がバラバラに実施していた授業を、2016年の教養共通教育のカリキュラム見直しの際に名前と単位数を合わせる形で統一したのが、この授業です。それまでは「情報基礎演習」という名前の他に、「コンピューターリテラシー演習」やそれ以外の別の名称で呼ばれていたりしました。また単位数も、工学部では1単位科目だったのに対して、総合人間学部では2単位科目だったりとバラバラでした。
名前と単位数を統一するのに合わせて、授業内容をどうするかということで、国際高等教育院の下にワーキンググループを作り、グループ内での議論を経て科目設計を行いました。その際、「アカデミックな活動に必要なICTスキルの獲得」「自立したICTユーザとなること」「ICTスキルを自主的、継続的に獲得する自学自習能力の獲得」という3つの目標を掲げ、共通教科書を作成することにしました。
先ほど酒井先生に見せてもらったこれですね。
はい。作成に際しては、附属図書館の北村先生や、人間・環境学研究科の日置先生に手伝ってもらいました。2017年からは酒井先生にも加わってもらい、改訂を手伝ってもらっています。他にも多くの方に手伝ってもらっており、お名前は教科書の「0. まえがき」に掲載しています。
酒井先生も少し触れていましたが、こういった情報リテラシーの分野というのは、受講生間での差が大きくなりがちです。大学に入るまでPCに触れたことのないような学生でもわかるように、教科書はかなり気合を入れて作成しました。この教科書ですが、CCライセンス*をつけて、本学の学術情報リポジトリKURENAIでも公開しています。
なお、工学部や理学部では、リナックスや複数のプログラミング言語を扱いたいということで、独自教材を使っておられます。そういった授業では各学部・学科の教員に授業を担当してもらっています。
*CC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンス・・・非営利団体クリエイティブ・コモンズが定義する、著作権のある著作物の配布を許可するパブリック・ライセンスの一つ。詳しくはこちら。
教科書の最後にはルーブリックも付いていますね。こちらも独自に作成されたのですか。
「情報基礎演習」で使用されているルーブリック(こちらをクリックで全体表示)
はい。この授業で扱う内容が決まった段階で、教科書より先にルーブリックを作成しました。
扱う内容ごとに大項目、中項目、小項目に分け、それぞれの観点ごとに、演習科目として合格のレベル(C)、演習科目の目標を達成したレベル(A)、在学中に身につけてほしいレベル(S)の3段階で評価できるよう、評価基準(左図参照)を作成しています。
このルーブリックで示した評価基準をクリアできるよう作成したのが、この教科書なのです。
到達目標から逆向きで教材を作成されたのですね。ルーブリックはどのように使われているのですか。
酒井:受講生に対して、授業目標が具体的にどういうものかを示すのと同時に、授業を受ける前と後とでどう変わったかを受講生に振り返ってもらうために使っています。
具体的には、初回の授業でルーブリックを紹介して、これからどのようなことを学ぶか、この授業を受けてどのような状態になって欲しいかというのを提示します。そして10回目の授業くらいに、授業を受ける前と現在の状態とで、ルーブリック上の各項目のどこに自分が位置しているかというのを、喜多先生、日置先生の授業と共通のアンケートで回答させています。
そうするともちろん自己採点ではありますが、だいたい1段階くらいレベルが上がったという回答となっています(左図参照)。
この結果をみると、全体として自己評価が高くなっていることが分かりますね。
喜多:はい。各項目に関して、前後で「A:達成目標レベル」の数がぐっと増えています。
この種の授業は、どうしても趣旨を誤解されやすい側面があり、「大学で街のパソコン教室のようなことをしてどうするんだ」とか「パソコンの使い方なんて学生が勝手に勉強するものだ」といった批判を学内外で受けることがしばしばあります。
そういった意見に対して、この授業ではここからここまでについて責任をもって教え、このような状態に仕上げて2回生に進級させます、ということを示すという意味合いも、このルーブリックはもっています。
大学生活に必要となる知的生産の技術を身につけてもらうために
こうやってお話を聞くと、本当に丁寧に設計、実施されていると感心しました。
そうですね。酒井先生からもお話ありましたが、本授業の主眼は、大学で必要となるアカデミックな知的生産の技術を教えるところにあります。受講生には、ロジックの通った文章や報告資料を、スタンダードな表現を用いて作成する方法を学んでもらいたいと思っています。
その際、例えば、節番号やクロスリファレンスを作成するといった機械に任せられるところは任せてしまい、中身を考えることに注力できるようになって欲しいと考えています。
そのような能力は、大学生活を通じて、また社会人になってからも必要となる力です。そのため、早い段階できちんとしたトレーニングを受けてもらいたいと思い設計し、実施しています。
この内容なら身近な学生にも受講を勧めたくなりますね。
実際、受講生のなかには、先輩から「この授業いいよ」と勧められて来た学生もいて、そういった声はやはり励みになります。
それは嬉しいですね。これだけ丁寧に指導してもらえる授業はそうないと思います。最後に、今後の展望をお聞かせください。
今、授業で扱えていないのが、クラウドを介した複数機器の連携の話なので、将来的にはそれを取り上げたいとは思っています。学生からは、「スマホとパソコンをどうやって連携するのか」や「グループで打ち合わせをするのに、どういうクラウド・ツールを使えば良いのか」といった声を聞くこともあります。ただ、学生に強制的にアカウントを取らせるのが嫌で、私はやっていません。
酒井:グループワークでの学生の様子をみていると、詳しい学生が「こういうツールがあるよ」と言ってOfficeのツールやGoogleのツールを紹介して、それを使ってということはあるみたいですね。
喜多:あとは、学生たちの使える動画コンテンツが増えてきているので、その作成方法に関するものはあってもいいかもしれないと思っています。私たちも教材として、操作方法を説明する様子をキャプチャした動画を作成しており、華々しさのためではなく本当に動いた方がいいものとしての動画作成に関するリテラシーは、育ててもいいのかもしれません。
とはいうものの、きっちりとした文章が書けるように、というのがやはり、第一の目標かなとは思いますね。
なるほど。この度はお忙しいところありがとうございました。
本インタビューは新型コロナウイルスの流行が本格化する前に実施されたものです。
このインタビュー後、状況は大きく変わり、本学でも完全オンラインの授業が多くを占めることになりました。オンライン化されたあとも、酒井先生、岡本先生、喜多先生は「情報基礎演習」を受け持ち、毎回の演習を課しているそうです。
「Zoom での授業は録画がそのままパソコンの操作のビデオ教材になるというメリットがあるため、期せずして動画教材が蓄積され、学生は学びやすくなったのでは」とのことでした。
なお、京都大学の個々の教員がオンライン授業の実践を報告するイベント「私のオンライン授業@京大」でも、本授業のオンライン化後の様子が紹介されています。以下のリンクよりご覧いただけます【学内限定】。
私のオンライン授業@京大 第4回「「PandA課題ツールの便利な使い方」情報環境機構長 喜多 一 教授 + 高等教育研究開発推進センター 酒井 博之 准教授、岡本 雅子 特定講師(2020年5月22日)〔2020-13〕【学内限定】
(聞き手:田口真奈・鈴木健雄/記事構成:鈴木健雄/写真撮影:河野亘/
インタビュー実施日:2020年2月20日/本記事公開日:2020年9月2日、2021年6月7日、2022年4月6日更新)