Topics教員インタビュー

Turnitinを用いた英語ライティング教育:剽窃を排し、より適切な評価を

京都大学 国際高等教育院 ジョン・ライランダー先生(応用言語学)

Turnitin(ターンイットイン)は、剽窃の検出やルーブリックによる評価、学生へのフィードバックなどの機能を備えたソフトウェアです。京都大学では2017年度にライセンス契約され、それ以降、PandAと連携する形で「英語ライティング-リスニング」の担当教員と受講生に提供されています。この度、本学の一回生対象の授業である「英語ライティング-リスニング」でTurnitinやGoogle Docsを積極的に活用しているライランダー先生にお話を伺いました。

プロフィール
  • 京都大学 国際高等教育院附属国際学術言語教育センター(i-ARRC)英語教室 講師。応用言語学の修士・博士およびクリエイティブライティングに関する美術学修士を取得。
  • 1992年より高等教育のキャリアをスタートし、2014年より現職に。中国やアメリカでの教育経験も有する。

「英語ライティング-リスニング」について

「英語ライティング-リスニング」とはどのような授業なのでしょうか。

2016年に、それまで別々に教えられていたリスニングとライティングという二つの授業を統合する形でスタートしたのが「英語ライティング-リスニング」です。リスニング、語彙、ライティングという3つの要素で構成されています*1。それぞれの内容ですが、まずリスニングは授業外での学習が可能になるように設計されています。学生は、本学のオンライン語学学習支援システムGORILLA (Global Online Resources for International Language Assisstance) を用いて勉強します。語彙については『京大・学術語彙データベース 基本英単語1110』を使っています。授業設計という点で特に工夫しているのが、ライティングのパートです。そこでは、アカデミックライティングにあまり馴染みのない学生に対して、情報をどう構成するかやいかに偏見を取り除くかといった点を強調しています。

*1 「英語ライティング-リスニング」ができた背景について、詳しくは次の文献をご覧ください。
桂山康司 他. (2018) 「京都大学における英語教育改革 ―英語ライティング-リスニングコースに焦点を当てて―」, 京都大学国際高等教育院紀要, 1, pp. 111-121.

学生の学習成果はどのように評価されているのですか。

以前に私が設計したルーブリックを使っています。こちらがルーブリックの評価項目の抜粋です(図1)。学生には事前にこれらの評価項目を伝えるとともに、授業の後半でルーブリックそのものも配っています。ライティングにおける目標がどこに置かれているかを示すとともに、それぞれの評価項目の比重がどの程度かを伝えるのがこのルーブリックの役割です。実際の評価項目に合わせて、課題の評価方法を教えることも重視しています。

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図1. ライランダー先生のルーブリック中にある評価項目の抜粋

そもそもなぜルーブリックを使おうと思ったのですか。

私が学生のときの経験ですが、課題を評価しようとするとき、先生の多くがまず一度クラスの全員から課題を集め、それらを比べることで相対評価によって点数を決めていました。しかしそれでは、教えるという仕事と評価という仕事に乖離が生じます。なぜなら学生は、他の学生がどの程度できているかわからず、また、自分がなぜ、どのように評価されたかがわからないからです。彼らがわかるのは、教員が何を教えていたか、そして自分がどのような課題を作成したかだけです。

ルーブリックを用いると、教員が教えることと学生が学ぶことをつなげられるということでしょうか。

そうなのです。そうすることによって学生たちも、何が評価され、どうすれば良い点数がとれるかということがわかるようになるのです。

Turnitinのルーブリック機能による評価

ライランダー先生は学生の課題の評価にTurnitinを活用したルーブリック評価をされているそうですが、具体的にはどのように活用されているのでしょうか。

実際にパソコンを使いながら説明しますね。まず、PandAにログインしPandA上にあるコースサイトに入ります。これが実際のPandAの画面です。学生はここ(図2)で課題を提出することができます。コースサイトとTurnitinが連携しており*2、教員用アカウントからログインし、学生が提出した課題のファイル名をクリックするとTurnitinが開きます。それが、この画面(図3)です。画面右側のパネルにDefinition, Examples, Explanation/ Description などの評価項目があり、各項目にあるバーを左右に動かすだけで採点できます。これらの項目は、私が先ほどお見せした評価項目(図1)と一致しています。各項目ごとの点数も自動で集計されるので、評価の結果を簡単に得ることができます。

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図2. PandAの課題提出ページ(学生用アカウントからみたとき。クリックして拡大)

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図3. Turnitinを使って課題をみたときのイメージ(クリックして拡大)

*2 PandAとTurnitinの連携機能は、学部一回生向けの英語ライティング・リスニング科目でのご利用を想定したライセンス数で契約しています。それ以外での授業利用については、追加の有償ライセンスが必要となる場合もありますので個別にご相談下さい。お問い合わせ先:support@iimc.kyoto-u.ac.jp

Turnitinを用いた剽窃検出

剽窃の自動検出機能がTurnitinの大きな利点と聞きました。どのような機能なのでしょうか。

はい、Turnitinを用いることで、教員だけでなく学生自身もまた、文章の独自性や他人の文章との類似性をチェックできます。この類似性というのは、偶然か、意図的なものか問わずです。この画面を見てください。他のテキストとどの程度類似しているのかだけでなく、オリジナルソースがどこから来ているのかも分かりますね(図4、図5)。たとえばこの文章の場合、出典はエコノミストです。

また、今まで同一機関に提出されてきた課題がデータベース化され、新しく提出された課題に同じようなものがないか照合することが可能です。Turnitinを導入している他大学の事例ですが、数年前に提出された課題が、名前だけ変えて提出されたことがありましたが、すぐに見つけることできました。

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図4. Turnitinは、課題が他のウェブサイトにある文章と類似しているかを自動的に評定する。ここでの「4%」は、今回使った文章がどの程度、他のウェブサイトの文章と類似しているかの度合いを示している。

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図5. Turnitinでは、他のウェブサイトの文章と類似しているかだけでなく、右側のパネルにオリジナルソースの文章が示される。この文章では、エコノミスト誌との98%の類似度が検出されている。

学生へのフィードバックをサポートする Turnitinの諸機能

Turnitinには他にも便利な機能があります。この画面を見てください。これはe-raterという機能(図6)で、自動的に文法をチェックし、その結果をフィードバックしてくれます。「自動的に」とはどういうことかというと、学生が課題を提出する際、文法のフィードバックを自動で得られるということです。教員が介入する必要はありません。
また、こちらのQuickMarksは、提出された文章に問題があったときに、そのことを指摘するためのタグを任意の場所に置くことのできる機能です(図7)。たとえば、<引用が必要な箇所>や<修正すべき表現>、<脱字>、<スペルミス>、<無終始文(複数の主節を接続詞等を用いずに繋いだ文)>、<主張のサポートが必要な箇所>などのタグです。新しいタグを自分で作ることもできます。また、Feedback Summaryという機能を使えば、最長3分までなら、フィードバックとして音声を収録し残すことも可能です(図8)。

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図6. e-raterを用いた文法の自動チェック(クリックして拡大)

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図7. QuickMarksを用いたテキストのフィードバック(クリックして拡大)

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図8. Feedback Summaryを用いた音声フィードバック(クリックして拡大)

Google Docsを活用した学生へのフィードバック

このようにTurnitinには色々な機能があるのですが、フィードバックという点では、私の授業ではTurnitinよりもGoogle Docsの方をよく使っています。ライティングの教員である以上、学生のライティングがどのように変化するかが重要だと考えています。Google Docsを用いることで、学生のライティングのプロセス全体をより細かく確認し、指導することができるので、学生へのフィードバックに活用しています。最近、本学のメールシステム (KUMail) にGoogleのプラットフォームを使用することになったおかげで、教員アカウントでもGoogle Docsにアクセスできます。

具体的にどのようにGoogle Docsを使っているのでしょうか。

授業中は、グループ単位でライティング課題に取り組んでもらっています。このグループで作成された課題をメンバー間、そして教員である私とシェアするために、Google Docsを使っています。Google Docsを使えば、ファイルが更新されるたびにグループ内で自動的に同期されるため、学生が何をしているのか、たとえばどの文章を入力し削除しているかといったことをリアルタイムで確認できます。メンバー間でも同様に、作業内容と様子とを互いに確認することができす。

学生に対してフィードバックするときは、Google Docs 上の文章に対して直接コメントをつけます。こうすると、授業中に学生と話す際にも、以前にどのようなコメントをつけたかがすぐにオンライン上で分かって便利です。学生がGoogle Docs上で質問等を書くたびに、通知のメールが自動でGmailアカウントに届きます。質問はGoogle Docs上だけでなく、対面でも受け付けています。Google Docsでは、学生が文書のどの部分を書いているかを追跡できることも大きな特徴ですが、さらに、個人の成績はもちろんグループの成績を付けられるのも有益ですね。

現在、アカデミックライティングの多くが単独ではなく、複数の著者の共同作業でおこなわれていると思います。その意味で、この方法では、実際におこなわれているかたちにより近くなります。多くの場合、書き手が協力して作業する方が良い文章になりますよね。また、ライティングのプロセス全体についても簡単に把握できるので、学生間のピア・フィードバックが自ずと促されます。学生に対して、こういったことを教えようとして教えるのは必ずしも容易なことではありませんが、この仕組みを使うことで自然とピア・レビューをしてくれています。

さらに、ペーパーレスな授業ができるようになるというメリットもあります。学生の課題にいつでもアクセスできるので、フィードバックのタイミングも柔軟になります。
Google Docsを使う前は、学生に課題を印刷して提出してもらい、課題の提出後、1週間で全員の課題を手書きで確認していました。その頃は、学生に締切を課すたび、自分にも締切を課しているようで、ライティング指導に相当の苦労を感じていました。現在は時間が空いたときに、課題の確認はもちろん、フィードバックに時間をかけることができています。フィードバックに対する学生の反応、これはフィードバック後の変化はもちろんのこと、変化しなかった点も分かるので、私自身、この仕組みを使いながら、学生のニーズを把握しつつ、より良いフィードバックをかけることができています。

Google Docsの使い方に不慣れな学生はいるのでしょうか。

そうですね。第一回目の授業で聞くと、学生の多くはGoogle Driveがどのようなものかを知りませんし、Google Docsを使ったことがある学生もほぼいません。それでも、アプリをダウンロードした後は問題なく活用できています。Microsoft Wordのように使えるので、学生には基礎的なことを教えるだけで済んでいますね。全員がコンピュータを持っていたり、毎週の授業に持参したいと思っていたりするわけでもないので、スマートフォン上での作業も認めています。スマートフォンなら学生は慣れていますし、すぐに対応できますよね。もちろん、タブレットを使ってもらってもいいですし、コンピューターから直接 Google Docsにアクセスしてもらってもかまいません。この点については極めて柔軟に対応できます。

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図9. Google Docsを用いた学生へのフィードバック

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ICTを用いて、より学生の学習プロセスを中心とした教育を

なるほど、TurnitinやGoogle Docsともにとても有用なツールですね。本学の他の教員の方に向けて、他に勧めたい点はありますか。

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私はアドミニストレーターではなく、あくまで一教員に過ぎませんが、個人的に授業内での活動をどうシンプルにできるかと考えながらTurnitinやGoogle Docsを使っています。
たとえば、文法チェッカーを例にとると、私の授業「ライティング-リスニング」は必ずしも文法を教えるものではありませんし、主たる授業内容や評価項目に文法は含まれておりません。とはいうものの実際には学生の多くが、文単位で文法面でのチェックをしてもらいたいと思っています。しかし、私の専門である応用言語学的な観点に立つなら、文法を習う上で、文単位でのフィードバックが必ずしも有効ではなく、他のもっと良い方法をとった方が良いということも分かっています。先に述べたような学生の期待は、彼らがそれまでに受けた教育に関する経験や教師はこうあるべきという考えからきているように思います。Turnitinはこういった教員と学生間にある隔たりを埋め、双方のニーズ-すなわち、教員は本来の授業内容に関連することについてもっとフィードバックをしたいと思う一方で、学生の側からすると文単位での文法チェックを受けたいという二つのニーズ-に対して対応することを可能にしてくれます。

最後に、TurnitinやGoogle Docsを用いることで、学生の学習方法やライティングの状況についてよりよく知ることができるようになったのは、大きなポイントだと思っています。ライティングの状況といいましたが、これはまさに白紙の状態から最終稿に至るまでの過程すべてについてです。これは、それらのテクノロジーが生まれることではじめて、把握することができるようになったものです。Google Docsで文書を共有しているメンバーであれば、どの段階の原稿も見ることができます。これまで把握できていなかったライティングの作成過程が簡単に可視化できるというのは、一教員としてみたとき大きなメリットといえます。

本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

(聞き手:鄭漢模(ジョン ハンモ)・河野亘/記事構成:鄭漢模・河野亘・鈴木健雄/写真撮影:鈴木健雄/
インタビュー実施日:2019年6月17日/本記事公開日:2019年9月13日)