Topics教員インタビュー

多様な文化の中で漫画を通して学ぶ生命倫理

京都大学 大学院文学研究科 児玉聡先生

児玉先生は、京都大学のスーパーグローバル大学創成支援「京都大学ジャパンゲートウェイ」における国際的な教育発信プロジェクトの一環として、MOOC「006x Ethics in Life Sciences and Healthcare: Exploring Bioethics through Manga」を2016年3月より配信されました。MOOCでは、生命倫理分野の重要トピックを扱うことから、特に配慮が必要だった点などについて振り返られました。

『マンガで学ぶ生命倫理』を用いたMOOC

まず、MOOCを制作されるに至った経緯についてお尋ねしたいと思います。MOOCを配信してほしいという話があったとき、MOOCのことを既にご存知でしたか。

いや、その時は存じ上げていませんでした。お話をいただき、じゃあ、講義で何を扱おうかということで、それ以前に執筆していた漫画を使った本『マンガで学ぶ生命倫理』でできないかという話になったと思います。生命倫理を扱ったものとして、すぐに英語化できるような講義はそれまでしておらず、ちょうどいい機会でした。

それまでの授業でもよく漫画を使われていたのですか。

漫画そのものについては、1、2回題材として使ったことはありましたが、この本を使った授業はしてなかったんですよね。この本は2013年に出版されたのですが、それ以降、授業で使う機会がなくて、その意味では、今回うまく活用できてすごく良かったです。

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講義映像の漫画部分のアテレコ風景。コーススタッフが中心となり、各キャラクターを演じている。

文化的な違いに配慮

今回MOOCを制作されるにあたってどのような点に苦労されましたか。

やはり英語で授業を構成するというのが一番大変でしたね。それまで学会等で英語を使ったり、単発でしたら、国内外で生命倫理の授業を英語でするということはありましたが、今回のような形で、シリーズとしての英語授業を行うことはありませんでしたので。題材とする『マンガで学ぶ生命倫理』を英語化していくにあたっても、専門用語の訳出には気を遣いましたね。文学研究科にカム先生という方がいて、その方にかなり丁寧に英語をチェックしていただけたので、それは非常に助かりました。
ほかには、最初、慣れなかった点としては、MOOCの場合、普段の授業と違って学生がいないため、収録時に学生の反応がわからないというのもありました。

先生の講義では、課題として掲示板やPeer Assessmentを利用したHomeworkを作っていただきましたが、その作成にあたって、大変だったところや配慮された点などはありますか。

課題を出すこと自体はそれほど大変ではなかったのですが、やはり文化的な違いに配慮するという点には気を遣いました。例えば、人工妊娠中絶や安楽死の是非の話題など、日本ではまだそれほど大きな政治上の問題にはなっていないような問題でも、海外では禁止されていたり、アメリカのように非常に多くの議論がなされている話題も扱っていたため、どういった形でそのような話題に対する意見を尋ねるかといった点には配慮しました。その際、アメリカやイギリスの受講者でしたらどういう反応をするのかについてある程度予想できるのですが、両国に限らない、いろんな国の多様な文化的・社会的背景をもった人たちが受講していますので、例えば、中絶が非常に厳しい地域の人も参加する可能性もありますし、予想がつかない中で配慮するというのがなかなか大変でした。この点については、フィードバックをみながら、今後活かしていきたいと思います。

その点に関連して、講義が始まった後で、実際に掲示板をご覧になってどのような感想をもたれましたか。

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児玉先生が課した課題(Week 1 Homework 1)。代理出産に対する法的な規制などに関する情報や、それに対する自分の意見を掲示板で共有する。問題の説明文(下線部)では、ほかの受講生の文化社会的な多様性を尊重するよう配慮されている。

いろんな人が参加しており、またいろんな国の人から投稿があったのは面白かったです。印象に残ったものとして、例えば、「講義素材として漫画を用いるというのは、本が読めない人のためにやってるのか」といった投稿がありました。日本とか東アジアでは、漫画は既に比較的大きな市民権を得ているように思うのですが、漫画はティーンエイジャーの頃までに卒業するもの、という風に思っている文化もまだまだあるということですね。もちろんこの話は一例ですが、掲示板での議論からは、そういった文化差というか、文化的な違いについて、いろいろ考えさせられましたね。

MOOCをどうやって普段の授業に活かすか

最後に、今回MOOCを制作されての全体の感想について伺ってもいいですか。

英語で生命倫理の講義をする経験として、今回、MOOCの形で全てを経験することができたというのは非常に良かったなと思っています。

その過程で、今後授業で使えそうなものや応用できそうなアイディアとして、得たものはありますか。

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授業をする際、ここ最近は一人ですることがもっぱらだったので、今回の経験を踏まえて、今後TAの方にもいろいろ協力していただいたり、ほかの先生と一緒にリレー講義をすることで、何か新しいことができるかもしれないと思いました。
ただ、現在実施している講義で直接活用するというのは、率直に言って現段階では難しいかなとも思っています。京大に来る前から、グループディスカッションをすごく重視しており、そういうのは今も通常の講義でやっているのですが、一方、MOOCではそういうのができないというところもあります。
そういう意味では、その代替ではありませんが、今回課題として出したPeer Assessmentのような、お互いの考え方を知る仕掛けみたいなものは非常に良かったんじゃないかなと思います。これまではMOOCを普通の授業とは別のカテゴリーのものとして考えていたところがあって、どうやって普段の授業に活かすか、その連続性というか、結びつきをもうちょっと考えていけたらと思います。

スーパーグローバル大学創成支援プロジェクトの一環として、このコースを活用されていく可能性についても考えられていますか。一度コンテンツを作ってしまえば、通常授業での利用の道も開けるかと思います。

そうですね。今、英語で授業しなければいけないのが文学研究科内でも結構出てきているので、検討しておきたいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

(聞き手:岡本雅子・酒井博之・田口真奈・香西佳美/記事構成:河野亘/
インタビュー実施日:2016年9月29日/本記事公開日:2017年6月19日)

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