Topics教員インタビュー

コロナ禍下の経験から生まれた、iPadを用いたハイブリッド型授業

京都大学 文学研究科 喜多千草先生(技術文化史)

2020年度、コロナ禍によってオンライン授業化の波が押し寄せる中、京都大学大学院文学研究科・文学部で授業開講支援を先導したのが、喜多千草先生です。これまではPCを使用せずに授業をされていた先生も多い文学研究科・文学部において、喜多先生はオンライン・オフラインの両面からオンライン授業支援に携わってこられました。特に、2020年度後期からはiPadを利用したハイブリッド型(ハイフレックス型)*授業実践を編み出され、全学的に紹介されています。今回は、様々なオンライン授業支援の生まれたきっかけや経緯に加え、これまでのオンライン授業の経験を「ポスト・コロナ」時代に活用していく方法について、お考えを伺いました。

*ハイブリッド型授業とは、オンライン授業と対面授業を組み合わせて実施する授業形態の総称であり、そのうち、ハイフレックス型とは、同じ内容の授業を、対面とオンラインで同時に行う授業方法を指します。詳しくは、こちらをご覧ください。

プロフィール
京都大学文学研究科教授。博士(文学)。京都大学学術情報メディアセンター助手、関西大学総合情報学部助教授、准教授、教授を経て、2019年秋より現職。専門は技術文化史。大学卒業後、NHK番組制作局ディレクターとして番組制作に携わった経験を持つ。文学研究科・文学部のオンライン開講サポートの中心的な役割を担った。iPadを利用したハイブリッド型(ハイフレックス型)授業実践については、研究科・学部の垣根を越え、広く学内に紹介。気分転換の方法は料理とヨガ。

コロナ禍下での文学研究科・文学部における授業開講支援

コロナ禍下、喜多先生は様々なオンライン授業支援に携わられたと伺っています。その全体像についてお聞かせください。

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私は、大きく分けて3つの取り組みを行ってきました。

第一に、京都大学のLMSであるPandAの利用に関する情報提供・支援です。第二に、研究科・学部内への「オンライン開講サポート窓口」の設置、運営です。同窓口では、PandAやZoomの設定などの技術的サポートやオンライン授業のための器具貸し出しを実施してきました。第三に、iPadを利用した授業実践の仕組み作り・情報提供です。これは2020年度後期以降のハイブリッド型授業を支援するものです。

こうした取り組みは、どういった経緯で始まったのでしょうか?

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聞き手の田口真奈准教授

始まりは3月中旬に遡ります。文学研究科・文学部では、コロナ禍を受け、新学期の授業対策を検討する委員会(以下、授業対策委員会)が2020年3月17日に設置されました。執行部および教務委員会の教員、一部の事務職員の方々とともに、私も委員のひとりとして授業方法の検討を行うことになったのです。

委員会では、授業のオンライン化にあたり、授業のスタイルを変えずに実施するのが良いだろうと考え、まずは授業での音声中継を確実にやれるようにする方法を検討しました。

文学部は学生の数がそれほど多くなく、対面・オンライン半々という形態にすれば学生を教室に入れることはできるという想定から、議論を始めた当初はハイブリッド型授業を念頭に置いていました。

しかし結局、前期は全面オンラインになりましたので、まずは教員・学生双方に向け、PandAの使い方に関する情報提供やサイトの立ち上げ支援に注力することになりました。オンライン授業ではPandAの利用が欠かせませんが、2019年度後期にPandAを導入したばかりの本研究科・学部では、教員・学生の多くが使い方に慣れていなかったのです。

PandAに関するオンラインでの授業支援

教員・学生双方に向けた情報提供と支援というのはなかなか大変そうです。

そうですね。情報が混線しないよう、教員向け・学生向けで情報を分け、わかりやすく情報を伝達することを意識しました。

学生には、研究科・学部のホームページに「オンラインでの授業開講に関する最新情報」ページ(左図)を作成し発信したほか、教務掛の方にお願いし、同じ情報をKULASISにも載せてもらいました。学生にとって授業に関する主要な窓口は教務掛なので、学生に情報を発信する場合には特に、教務掛の方々との連携を大切にしています。

教員に向けてはどのような支援をされたのですか?

オンラインとオフラインの両面から支援に取り組みました。オンラインでは、メール問い合わせ窓口を通じた個別の質問対応と、PandA上に新設したプロジェクトサイトである「PandAのツボ」を通じた情報提供・共有を行っています。オフラインでの対応としては、あとでお話しするように、「オンライン開講サポート窓口」を文学部内のスペースに設けて、PandAやZoomの使い方に関する質問を直接受け付けているほか、iPadなどオンライン授業実施のための器具貸し出しを行っています。

まずは、メール問い合わせ窓口についてお聞かせ頂けますか?

bun_OnlineSupport [at] bun.kyoto-u.ac.jpというメールでの問い合わせ窓口を作成し、私の他に情報委員会の先生方、情報助教、教務掛、オンライン開講サポート窓口の技術補佐員が「中の人」としてサポートを行っています*。受けた質問への回答がメインの活動ではありますが、PandAの利用が本格化した4月、5月には、こちらから専任・非常勤全ての教員に向けて発信することもありました。

*迷惑メール防止のため、ここでは@の代わりに [at] で表記しています。

「PandAのツボ」とはどのようなものでしょうか?

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「PandAのツボ」ホームページ(PandA上のプロジェクトサイト)

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喜多先生を中心にしつつも、様々な先生からオンライン授業に関するコツが投稿されている。

これは文学研究科・文学部の教員向けにPandA上に開設した、プロジェクトサイトです。学内・学外、専任・非常勤全ての教員と、技術補佐員等が参加してくれています。

いくつかコンテンツがあるのですが、主要なものとして、「コツのアーカイブ」があります。前述のメール問い合わせ窓口に寄せられた質問のうち、典型的なものへの対処法や、便利な使い方に関する情報提供しています。

それだけでなく、PandA利用に際して特につまずきやすいポイントについては、「わかりにくいポイントの動画」を日英両言語で提供しているほか、オンライン授業に利用できる様々なテンプレートを「リソース」として提供しています。同時に、参加者同士が使い方の疑問やオンライン講義に関するアイデアを話し合える場としてフォーラムも開設しました。

このプロジェクトページの開設自体は私が中心になって進めましたが、情報委員会の先生、有志の先生が早い段階から積極的に書き込んでくださったので、すぐに充実したコンテンツとなりました。最近では、後述の「オンライン開講サポート窓口」の技術補佐員の2人が私の対応を参考にページを更新してくれています。

これはすごいですね。初めて知りました。

このプロジェクトサイトは基本的に文学研究科・文学部の教員にアクセスが限定されているため、学内での認知度は低いと思います。「文学のFD活動は外から見えにくい」と言われる所以かもしれません。

このようなプロジェクトサイトの形となったのは教員にとっての利便性を考えた結果です。まず、PandAに関して分からないことはPandAで完結した方が分かりやすいというのがあります。さらに、オンライン授業に関する情報は、高等教育研究開発推進センターや教育学研究科など、様々な部局が発信してくださっていますが、文学研究科・文学部向けに情報をカスタマイズする必要があると考えたためです。

もっとも、「PandAのツボ」は他部局の先生も参加可能ですので、ご関心をお持ちの先生は、後述のオンライン開講サポート窓口までご連絡いただければと思います。

オンライン授業という新しい試みの中、多くの質問が寄せられ、ご苦労も多かったかと思います。

前期授業開始時の、非常勤講師のPandAへの登録作業の支援がやはり大変でしたね。本研究科・学部では、他研究科・学部と比べて非常勤講師の数が多いため、特に多くの労力が必要になりました。

非常勤講師の方がPandAを利用するのにはECS-IDが必要なのですが、IDをそもそももっていない方もいれば、IDを持っているものの、延長申請待ちになっていたり、再申請待ちになっていたりなど、様々なケースがありました。したがって、一律に新しいIDを申請することができず、個別の状況対応に苦労がありました。非常勤講師の着任時に、自動的にPandAに登録がされるようになるとありがたいです。

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常勤の教員からもPandAやZoomの利用法に関する質問が多く寄せられ、前期は質問の対応に追われました。かなりの量の問い合わせがあったため、メールは書き言葉ではなく話し言葉のメディアだと割り切って、スピード重視で返信をしていましたね。

最近では、先生方が徐々にオンライン授業に慣れてきたほか、「PandAのツボ」のコンテンツが充実し、困った時にそれを参照すれば解決できるケースも増え、問い合わせはだいぶ落ち着いてきました。

「オンライン開講サポート窓口」を通じたオフラインでの授業支援

続いて、「オンライン開講サポート窓口」について教えてください。

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この窓口は、本研究科・学部の常勤・非常勤の教員全員を対象に、オンライン授業実施に関わる技術的な質問の受け付けやオンライン授業実施のための器具の貸し出しを行う支援窓口です。

現在閉鎖されている文学部学生ラウンジのスペースを使用し、今回特別に雇用した技術補佐員2名が対応にあたっています。5月からの授業開始に間に合うよう、4月2日から窓口を稼働させました。窓口は長期休暇中を除いて毎日開けており、技術補佐員が1名在室しています。ハイブリッド授業が増えると考えられた後期には、技術補佐員か事務補佐員、またはOAが8:30から17:00まで在室するようにしました。

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この日も窓口を訪れる先生がいらっしゃった。対応にあたっているのは技術補佐員の堀井さん。

技術補佐員の2名には、私の授業にインストラクターとして参加して必要な知識・経験を学んでもらった上で、PandAの使い方に関する情報提供や、PandAのプロジェクトサイトの立ち上げ支援に尽力してもらいました。

ハイブリッド型授業が行われるようになった後期では、オンライン授業実施に関わる質問の受け付けや、iPadなどオンライン授業実施のための器具の貸し出しが中心的な業務となっています。

iPadを活用したハイブリッド型授業実践

ハイブリッド型授業にiPadを利用することとなった経緯を教えてください。

本研究科・学部の教員のオンライン授業への対応の様子から、それ以前は授業にPCを使っていなかった教員の存在が見えてきました。そこで、授業のスタイルを変えずにハイブリッド型授業を行う方法がないかと考えていたところ、教務補佐の方からiPadが使いやすいとのアイデアをもらいました。 ちょうど前期授業の開始にあたって、情報環境機構からiPadの貸し出しを受けており、それを使って試行錯誤を繰り返した結果、今の形にたどり着きました。

iPadを利用するメリットは何でしょうか?

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iPadを利用したハイブリッド型授業風景(喜多先生提供)

授業実施の手軽さが一番のメリットだと考えています。以前に全学向けの講習会*でお話ししたように、小規模の教室であれば、iPadを設置するだけでオンラインでの音声・映像の中継ができ、普段通りの授業を進めることが可能です。

なお、大規模教室では音を十分に拾うことが難しいため、専用のハイフレックス用教室設備を整えてくれるよう要望しているところです。

*2020年10月29日に開催された学内講習会、「私のハイブリッド型/オンライン授業@京大」第9回。当日のアーカイブ動画と資料はこちらからご覧いただけます(学内限定): 学内ネットワークKUINS利用

オンライン開講サポート窓口では、どのようにiPadの利用支援をされているのですか?

iPadの貸し出しや設定の補助、利用方法の相談にあたっています。

当初は窓口でセッティングして、セッティング済みのiPadを教室に持っていくという先生もいらっしゃいました。今では、専任教員には基本的に自分でiPadを購入してもらっているほか、サポート窓口で貸し出しを利用される先生についても、機器を借りるだけで、設定はご自身でなさる先生が多いです。

文学研究科・文学部の全部の授業がiPadで行われているわけではなく、ご自身の手法でハイブリッド型授業を実施する先生もいらっしゃいますが、こちらとしては、iPadを利用した授業方法・サポート窓口に関する告知は、全教員に向けて行っています。

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後期の授業開始にあたって喜多先生が作成された、iPadを利用したハイブリッド授業の案内シート。こちらからPDFでダウンロードできます。

様々な取り組みのお話を伺っていると、喜多先生の縦横無尽のご活躍が印象的です。

私ひとりでオンライン授業支援を行っているわけではありません。確かに立ち上げの段階では私が主体となる場面も多かったのですが、すぐに他の教職員の方々の協力が得られ、協働して進めています。前述のメール問い合わせ窓口であれ、「PandAのツボ」であれ、情報委員会の先生や有志の先生のご協力、サポート窓口の技術補佐員の2人の尽力があってはじめて、円滑に運営できているのだと思います。

トップダウンで進めるというのは本研究科・学部の風土に合いません。ある先生からはオンライン開講「サポート」窓口という名前がよかったんじゃないかという声もいただきました。「オンライン化」窓口のような名前だとトップダウン感が出てしまっただろうと。

なるほど。こうした協力体制は今後どうしていきたいとお考えですか?

今後のオンライン授業サポート窓口の運営については、研究科・学部にて検討中ですが、今後誰が担当することになっても、今と同じように運営できる仕組みとなっています。

私自身も関わり続けるつもりですが、あくまでもボランティアとして支援するだけ。技術補佐員の2人はだいぶオンライン授業支援に慣れてきて、「PandAのツボ」の更新などもしてくれるようになってきています。個人に依存するのではなく、組織として継続できるような体制を作るつもりでこれまでやってきたので、嬉しい限りです。

組織的な体制づくりは、これまでどんな役職にいるときも意識してきたことですので、今回作った体制が今後もうまく機能していくよう見守っていきたいと思います。

ユーザー目線に立った授業開講支援の仕組みの構築

iPadを利用した授業実践のアイデアが生まれた背景をお伺いしたいです。これには、先生のNHKでの勤務経験も関わっていらっしゃるのでしょうか?

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iPad・関連機材の除菌には使い捨てのメガネ拭きを利用。写真撮影時、商標が映らないように商品の向きを気にしてしまうのは、NHK時代からの癖だとか。

いわゆる「プロ仕様」のオンデマンド教材を作り、授業を実施するというのは難しいと考え、ハイブリッド型授業の検討を早い段階で始められたという点では、NHKでの経験が活きていると感じています。

NHKにいた頃、教育番組の担当者としてプロフェッショナルなレベルのオンデマンド教材制作現場に携わる経験があったほか、退職して大学院に進んだ後も、外部委託ディレクターとして番組制作をしていました。

プロ仕様のオンデマンド教材では、相応の収録設備が必要なだけでなく、内容を圧縮する準備、技術が必要です。生放送では気にならないような話の間や言い間違いなどが、収録された番組ではとても気になるものですし、視聴者が飽きないような工夫が必要になります。きちんと内容が圧縮されていないと、チョコチョコ散漫に見るという形になってしまいがちなのです。

こうした経験から、高等教育の現場でプロのようにオンデマンド教材を作成することはできない、とすぐに割り切ることができました。

その上で、文学部の教員の授業のやり方について実際に現場で見聞きしたことから、ハイブリッド型授業を模索するようになりました。

前述の収録設備・技術の問題だけでなく、そもそもコロナ禍以前はPCを使わずに対面授業を行う教員がほとんどでした。教員が一番力を発揮できる形でのオンライン授業を考えた時、ライブでの対面授業をベースにオンライン化する、ハイブリッド型授業が適切だと考えるに至ったのです。

もちろん、オンデマンド授業を行うという判断はありうるものです。ただ、前述の理由から、オンデマンド授業は全ての教員におすすめできるものではないと思っています。

オンライン授業に関する多角的で手厚い支援の様子から、先生の教育熱心さをひしひしと感じます。

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私自身として、そんなに教育熱心なつもりはなく、今回のことでそのように注目されるのには戸惑っているのが正直なところです。私の授業支援への関わりは、教育の熱心さというよりも、研究者としての学術的な関心の反映だと思っています。

研究者としての学術的な関心、ですか。

私は技術文化史を専門としており、ICT、コンピューティングなどの技術がどのように社会に普及していくか、といった点に関心を持っています。その観点から考えると、コロナ禍によってICT技術を導入しなきゃいけない状況が突然発生した中で、これまでそうした技術を使っていない人がどう対応するのだろうか、高等教育の現場はどのように対応するのだろうか、という問いが生まれたのです。

こうした問いを考える上で、面白い視点を一つ紹介しましょう。科学技術の普及による社会の変化、特にコミュニケーション手段の変化に関して、ウィリアム・ミッチェルという建築家が著書『e-トピア』にて提示した、「居ることの経済性*」という概念があります。

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「居ることの経済性」に関する4象限
(出典:ウィリアム・J・ミッチェル『e-トピア:新しい都市創造の原理』渡辺俊 訳、丸善株式会社、2003年、209頁)

そこでは、同期/非同期と、ローカル(現地)/リモート(遠隔)という2つの軸による4象限からコミュニケーションの形態の分類が行われます。その上で、インターネット等のコミュニケーションに関わる技術の進歩により、コミュニケーションの密度という便益とコミュニケーションの時間的・空間的コストのトレードオフのもとでコミュニケーションの形態が選択される状況が今日新たに現出していると論じられています。

この考え方によれば、同期かつローカルのコミュニケーションが最も濃密で、質が高いものの、時間と空間を合わせないといけないため、最もコストの高いコミュニケーションだと考えられます。一方、非同時化あるいはリモート化されたコミュニケーションでは、コミュニケーションの密度は減少するものの、時間的・空間的コストは下げられることになります。

この観点からすると、大学の授業は興味深い事例です。これまで、大学の授業は高コストなコミュニケーションの代表例として考えられてきました。ところが、コロナ禍下でのオンライン授業を通し、対面・同期が本当に必要とされる授業と、必ずしも必要としない授業というものの存在が浮かび上がってきました。コロナ禍という大きなショックによって、無理やり情報化が進行した結果、コミュニケーションの形態が見直されているのです。

コロナ禍を経て、今後大学がどのようになっていくのか、さらには社会がどのようになっていくのか、技術文化史の専門家として興味を持っています。

*「居ることの経済性」について、喜多先生が2021年2月13日にオンライン講義「e-topia再考:情報社会論から考える ポストコロナの都市」を実施されています。こちらのリンクより、ぜひご覧ください。

オンライン授業のメリット、活用方法

先生がご自身でオンライン授業に取り組まれる中で、何かメリットは感じられましたか?

そうですね、メリットとして挙げるとすれば、授業での学生からの反応の良さ、授業設計の柔軟性、といった点があるでしょうか。

授業での学生からの反応の良さというのは、どのような場面で感じていらっしゃるのですか?

授業に関する質問・コメントが、今までよりもずっと多く出るようになりました。専修の演習では、授業中に15分程度とり、全員にSlack上に質問を書いてもらっています。院生がその質問を取りまとめ、質問を行い、それに対して私がコメントをするという形なのですが、多くの学生から質問が出て、非常に良いと思っています。

また講義のほうでは、例えば、「○○について知っていますか?」という問いを投げかけて、Mentimeterで一斉に答えを書かせたり、Zoomの投票(Vote)機能を使って、全員の意見を集めることができますよね。これまでの教室での授業ではできていなかった学生とのインタラクションを気楽にできるのが、メリットだと感じています。

なるほど。他には何がありますか?

柔軟に授業を設計できるようになったというのがありますね。

例えば、教室という場を越えて様々な現場に触れられるようになった側面があります。今年度前期の文学部のメディア文化学講義では、NHK京都局のディレクターに局内を案内してもらったり、後期の全学共通科目では、朝日新聞の方に新聞社の編集局を案内してもらったりしました。 これは通常の授業ではなかなか見せてあげられない場ですよね。

加えて、録画した授業をFDに活用するということも可能だと思います。私がコーディネーターとして参加している、若手教員によるリレー講義では、録画した他の教員の授業を見て、授業のやり方を学ぶ・討論するという動きが実際に見られています。

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「オンライン開講サポート窓口」の貸し出し用iPad。ラック内の端末は本体の充電、Zoomの設定が完了した状態となっており、すぐに授業に利用できる。

さらにいうと、学外の講師・ゲストスピーカーを呼びやすくなったというのがありますね。移動を気にしなくて良い分、対面授業の時よりも随分お願いしやすくなったと感じています。

私のゼミでは、学生の様々な専門に対応するため、他大学の先生をゲストコメンテーターとしてお願いすることがあるのですが、以前と比べ、気軽にお願いできるようになりました。リレー講義では、移動を気にしなくてよくなったことにより、自分の担当回だけでなく、翌週の回にも一部ご参加いただき、前の週の授業内容に関するフィードバックを頂くことができるようになりました。これらは学生にとって大きなメリットになると思います。

こうした形を発展させ、日本各地、さらには、世界各地からゲストスピーカに参加してもらえるようになると面白いですよね。

最後に、オンライン授業に関する今後の展望をお聞かせください。

オンライン化によって、以前より簡単になったものがたくさんあるので、うまく取り入れて今後の授業につなげていくことができたらと考えています。

一方で、今後オンライン化がどう進んでいくかについては、学生にとっての利便性が鍵になると思います。対面・オンラインという選択肢があるのは良いことです。ただ、対面・オンラインが時間割上にまだらに存在するような状況になると、学生はやりにくいだろうと思います。ある程度は対面かオンラインか統一する必要があるでしょう。

学生の利便性を確保した上で、教室での授業にオンラインの良さを加味したようなスタイルが定着していくことを期待しています。

本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

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今回のインタビューの同席者で記念撮影。左から、高等教育研究開発推進センター・渡邊駿、高等教育研究開発推進センター・田口真奈、文学研究科・喜多千草先生

(聞き手:田口真奈・渡邊駿/記事構成:渡邊駿/写真撮影:鈴木健雄/
インタビュー実施日:2020年12月11日/本記事公開日:2021年2月5日)